⑰『助けて助けて』千田多喜子著(手)

 毎日のように事故や地震がある。又、自死する若い子のニュースも。最悪は親が子供に虐待して死に至らしめる事件だ。その度に何故実の親が……と誰もが憤りを覚える。

 図体はなくなってしまっても彼らの魂は落ち着く場所を持っていない。当然だ! 死の覚悟も無いまま肉体が先に破壊されてしまったから……。彼らの魂は助けを求めて手を宙にあても無くあげている。身体はバラバラになってしまっても魂は腕と指先だけは誰かの手をつかもうとしている。手の色は赤だったり緑だったり、まるで信号機と同じようだ。

 まだ若くて白く美しい女性の手、歳老いてしわだらけのゴツい老人の手だったり、物心もつかない幼い子の柔らかい肉の手だったり誰もが我先にと助けを求めている。赤い手は若くまだ生命力が残っている手。緑色の手はもう腐りかけている手。上からライトがあてられる。どの手を助けるべきか? ライトを当てて不透明な手はまだ助かる可能性の有る手だが、半透明になっている手は助かる見込みがもうない手のようだ。一度に多勢の人が傷ついてしまった場合、助けたいけれど優先順位を考えて対応するだけの冷静な判断は人には出来ない。この時決定するのはライトを当てているAIだ。名付けて「優先順位判断マシン」このAIは日ごろからに通い美しい手を保つ努力をしている女性、あるいは男性であっても彼らの皮膚の下の状態を瞬時に見透かしてこの先まだ生き延びる力があるのかどうかチェックする機能がある。あるいは幼い子供の場合はケアに手間がかかる可能性があって、まだ次の世界に行ききっていなくても選ぼうとしない。

 今後瞬時に判断が必要な時に対応するのは正しく冷静に判断を下すAIに頼らざるを得なくなるだろう。すると余命の長短も判断の基準になるはずだ。従って七〇代の私などはまな板の上にもあがらないことは間違いない。



――

千田多喜子さん

図書館の利用者様

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