⑱『赤いブランコの謎』千田多喜子著(ブランコ)

 相子さんは思い出していました。幼い時、春の日にあったことを。「アイコちゃん」と呼ばれた六歳の時、お父さんの転勤でお友達が出来にくかった彼女。アイコちゃんの住んでいたマンションの前には公園がありました。そして公園には幼い雇用のブランコがありました。そう、赤と青の椅子のブランコです。

 暖かい陽ざしのある日、アイコちゃんは好きな赤のブランコに乗ろうとしました。ところが赤いブランコには既に男の子が乗っていました。茶色い紙の毛、ブルーの目の男の子でした。青いブランコは空いていたのでアイコちゃんは男の子に「私、赤が好きだから代わって」と言ったのです。すると男の子は「イヤだ! 僕はこの赤いブランコでないと楽しくないのだから」と代わってくれませんでした。アイコちゃんは男の子がブランコから降りる迄ずっと公園の隅の大きな楠の木の下で待っていました。けれどお陽さまが少しかげってきても男の子はブランコを降りなくてアイコちゃんは諦めて家に帰ってしまいました。次の日、今日こそは、と思って外を見ると雨が降りそうでした。雨が心配で公園に行かなかったら、又昨日の男の子が赤い方のブランコに乗っていました。

 アイコちゃんがやっと赤いブランコに乗れたのは二週間くらい後の日曜日でした。そしてそれから毎日男の子は公園にきていなくて赤いブランコはアイコちゃんの乗り物になりました。アイコちゃんはお母さんに、この男の子のことを話しました。するとお母さんは、以前小さい男の子が青いブランコに乗っていて事故で亡くなったことがあったという話をしてくれました。青い目の男の子は外国から帰って来たばかりで一緒に遊ぶ友達がいなかったようでした。青いブランコに乗ると悲しいことを思い出しそうだから赤い方を選んだのだったようです。その後公園のブランコは青色は無く、赤ばかりになったそうです。


――

千田多喜子さん

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