⑯『黒じゃない影』No.6著(手)
私は夜が好き。だって影が現れないから。まっ、現れたとしても夜のやみに溶けてしまうことが多いから気にしない。
いつからか忘れたけれど、私の影に色がつくようになった。最初は、黒でもない、グレーでもない、濃い青色の自分の影を見て言葉を失った。びっくりして叫んだら、明るい青色に変わった。なになにって三度見くらいしたら、赤色になった。黒じゃないことにも驚いたけど、色が変わっていくことにさらに驚いた。どういうこと? これは現実?
あまりにびっくりして、この日はなにも考えられず、帰ってすぐに寝た。
翌朝、晴天。朝起きてすぐの日課の散歩に出かけた。ふと影を見たら、緑色だった。自分の影が黒じゃなくなったことを思い出した。ひえって心の中で叫んだら、前から歩いてきた通勤途中の人に変な目で見られた。やばい、私の影を見られた。黒い影を持たない私は、変な人だ。走って帰って、もう外に出られなくなるかもしれないと思ったら、涙が出てきた。部屋で泣いていたら、母が「朝ごはんはどうする?」と部屋のドアを開けた。開けた瞬間、日が射し込み私の後ろに影ができた。母が私を見つめている。まずい、黒じゃない影をみられた。言葉が出ない。どうしよう。と思って動けないでいると、母がもう一度、「食べるの? 食べないの?」と聞いてくる。
私も、私の影も見えているはずなのに、朝ごはんのことだけを聞いてくる。まてよ、影が黒じゃないって気づかれてないのかも。そうだとしたら試してみよう。一緒にリビングに行き、朝ごはんを食べた。私の影は黄色だけど、母はモリモリ食べて、テレビを見て笑ってる。間違いない。気付かれていない。
自分しか気づいていないのなら、気にすることは何もない。陰に色があるってかわいい。他人にない能力を私は持っているのかもしれない。心がおどる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます