⑪『2区のうなぎ』悠 著(うなぎ)※息子編

「大変なことが起こりました! ここ権田坂で3年の山本選手大ブレーキ! 東都大学2連覇の夢が大変厳しくなりました」


 12月30日、ここ東都大学陸上部の寮にはいろいろな差し入れが届いた。香川出身の太田の実家からはうどん、他にも母の会から手作りシフォンケーキ、近所のスーパーからはバナナ。そしてぼくの実家「山本水産」からはうなぎ80人分。みんな大喜び。ぼくも、花の2区で区間賞をとり、2連覇に貢献しようという気持ちが高まった。


「なんで息がこんなに苦しいのか。ぼくの脚はどうなった? 権田坂は永遠に続くのか?」

 結果は区間17位。何が区間賞だ……。1位でつないでくれた1区からのタスキは、ぼくで一度17位まで落ち、先輩方の頑張りで3位まで持ち直したものの二度と1位に浮上することはなかった。ぼくが2連覇の夢をビリビリに破いた。


 一月四日からは次のシーズンが始まる。本当なら暗いうちに集合してぼくたち新4年生を中心に走るはずだ。

 ぼくは練習に行けなかった。みんなが優しすぎていけなかった。一日だけ休もうと心に決めて、茨城の実家に帰った。

 山本水産に隣接した「山本水産食堂」に入ると、父と母が黙ってぼくを迎えてくれた。

「うなぎ定食、特上にしといたぞ」

 涙がポロポロこぼれた。

「よかった。初めてちゃんと泣けた」

 甘辛いタレのからんだうなぎ、肝吸いもうまい。白菜ときゅうりの漬け物はばあちゃんが漬けたやつだ。

 明日からまた走ろう。ぼくは、うなぎをモリモリ食べた。


《了》



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