⑫『うちの長男』悠 著(うなぎ)※父親編

 うちは、うなぎの卸を中心にやってる山本水産。定食屋もやっている。

 うちの長男は名門東都大学駅伝部三年生。80人いる部員の中から、この度箱根駅伝最終メンバー16人に選ばれた。しかも、華の2区にエントリーされている。

 妻は朝からソワソワしている。

「ゆうちゃんの寮に、うなぎを差し入れしようと思ってるんだけど、パパ80人分、大奮発しちゃっていい?」

「やったれ! やったれ! ドーンと送ったれ!」

 東都大学駅伝部のインスタグラムに、おいしそうにうなぎを食べている部員の姿がアップされた。長男も食べとる、食べとる。


「大変なことが起こりました。箱根2区、ここ権田坂で、3年の山本選手大ブレーキ、東都大学2連覇ならずか~」

 結果は区間17位。1区の選手が1位でつないでくれたタスキは、先輩たちの頑張りで3位まで持ち越したものの、二度と1位に浮上することはなかった。


 一月四日、長男が帰ってきた。本当なら次のシーズンの始まる今日は暗いうちに集合してスロージョギングをしているはずだ。


「うなぎ定食、特上にしといたぞ」

 長男は涙をポロポロ流しながら、ガシガシとうなぎを食べ、うまそうに肝吸いを飲んだ。

 泣けるならいいなとおれは思った。


 長男は、うなぎを食べて2時間くらい2階で寝ると寮へ戻っていった。


 明日からまた走れ!

 うまーいうなぎ、また送ってやる!


《了》


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