⑩『失恋公園』ASAYAKE著(ブランコ)

「ねぇ、今から会える?」

 スマホの画面が光ったのは突然だった。幼馴染みの美緒からのメッセージで、微睡んでいたベッドから起き上がる。高校の授業終わり、まだ夕日は沈んでいない。

「分かった、今から行く」

 そう短く返事をして家を出る。美緒が落ち込んだ時に行く場所。それは決まって、あの場所だ。


「美緒・・・またブランコ乗ってるのか?」

「別に良いでしょ。私の定位置なんだから」

「例の先輩にフラれたんだろ」

「そ、そんなハッキリ言わないで!」

 幼稚園の頃から何年もずっと遊んできた公園。ここに呼ばれた理由も、今の美緒の気持ちも、手に取るように分かる。

 好きな人がいるというのは、前々から聞いていた。その先輩のどこが好きとか、今日目が合っちゃったとか、少しだけ会話できたとか。嬉しそうに話す美緒の顔を、俺はどれも忘れることはできない。

 だからこそ、毎回毎回胸が張り裂けそうだった。そんな美緒に俺は何年も、密かに片想いをしているのだから。

「そう落ち込むなよ。俺がいるだろ?」

「いや、あんたは先輩にはなれないでしょ」

「まぁ・・・そうなんだけど」

 叶うことのない儚い恋。お互い大きくなってもう乗れなくなった赤いブランコが、隣で寂しくユラユラと揺れている。それはまるで、何年も感じている胸の痛みを鮮明に物語っているかのようだった。


 結局、夜になるまで美緒は話し続け、満足した様子で俺を置いて帰っていった。

 急に訪れた孤独な静寂。その先輩よりもずっと長い、何年も何年も積み重ねた思い出を抱きしめながら──俺は一人、揺れるブランコを眺めた。


――――――――――――――――

ASAYAKE lit.link/asayakesun

――――――――――――――――

胸をアツくさせるエンタメ小説を目指して

執筆・創作活動をしています。

ぜひお立ち寄りください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る