⑨『うなぎのあぶら』長尾たぐい著(ひつまぶし)
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鰻の脂はくどくて嫌いだ
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パートの時給、一時間千二百円。特選ひつまぶし、一膳四千八百九十二円。私が四時間働いても、ここの看板メニューを注文するにはまだ足りない。絶滅危惧種の血を抜き、腹を割き、臓物を取り除いて、職人が汗水垂らして――今だって真冬だというのに首筋に汗が流れているのが見える――炭火で火を通したものに、出汁と薬味を添えたもの。文化砂漠、何もない名古屋の数少ない名物、ひつまぶし。
洗い場の水道から出てくる水は、鰻の脂をしっかり洗い流すために常に四十度に設定されていて、還暦間近の私の手から容赦なく油分を奪っていく。今洗っているものが今日これで何個目のおひつなのか分からない。本日、私たちはこれだけの不当な虐殺を行いました。だんっ。だんっ。そんな所感は馬鹿げていると断じるように、鰻の首が落とされる音が厨房に響く。
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https://kakuyomu.jp/works/16818093073908145908
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長尾たぐい
https://kakuyomu.jp/users/220ttng284
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95年生まれ。はやみねかおる発、純文学経由・SF方面行きの鈍間な長尾類。
調べ物と干した果物が好き(マイブーム:青マンゴー)。
事実・技術・不文律の変化でどんな未来が訪れるのかに関心がある。
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