第4話 コンテニュー2回目
ここに来て2日目を迎えた。
シンプルほどつまらないものは無いと言わんばかりの無機質な空間。
一切の装飾がない白い壁と、床に固定された白いテーブルと複数の卵形の椅子。
この退屈な空間でやることは一つ。会話だ。
「どうしたんだい、ヒイロ?」
「いや、なんでもない。続けてくれ」
「僕が惑星ポロンビアでチンポロドンをトゥゲった話だが――」
俺の名前は
現在は今目の前で足を組んで座っている、単眼金髪ボブの宇宙人――キャプテンと名乗る女に『爆破した宇宙船の借金23億円』を課せられ、宇宙を漂うこの船に俺は乗員している。
ただの高校生がそんな大金を稼ぐことは不可能に近いのだが、キャプテンは「この船で働いて返せ」と提案をしてきた。
当然俺は拒否したが、やむを得ない事情があってそれを承諾し、現在に至っている。
「キャプテン、ヒイロ様。食事の用意ができました」
今食事を運んできたのが、超絶クール美女のアンドロイド『
やむを得ない事情と言うのが女性の存在である。
***
借金を科せられたあの日――
意地になって拒絶をする俺に、彼女は耳元で
――私、かわいいですよ。
確かにそうだ。チャッピーの顔はめちゃくちゃ俺のタイプで、彼女とこのまま別れるのは惜しい。
一瞬心が揺らいだが、自分の一生に関わる問題だ。一時の甘い感情で判断はできない。
拒絶するため手を出した瞬間、チャッピーはその手を受け止め、撫でるように優しく胸元に抱え込んだ。
――私の胸は
そこまで言われちゃ仕方ない。
俺も男だ。借金は受け入れよう。
そうして俺は理不尽な借金を返すため、1人と1機の元で働くこととなったのだ――
***
「本日の料理は中華フルコースでございます。まず前菜は蒸し鶏の甘辛ソースと冷菜の……」
キャプテンと俺が座るテーブルに、チャッピーが作った料理が置かれた。
俺に考慮してくれているのか、キャプテンが気に入ったからなのか、見慣れた地球の料理が今日も振舞われる。
「いただきます……うん、美味い。相変わらずチャッピーの料理は最高だな」
「ありがとうございます」
チャッピーが俺にウインクを送る。
めちゃくちゃ可愛いし、飯は完璧……はっきり言って幸せだ。
あっという間に皿の上が空になり、余ったソースをフォークで
「どうした……んっ、ヒイロ? 浮かない顔をして」
顔に出ていたのか、キャプテンが口に料理を含みながら尋ねる。
俺は彼女の
「……俺は今何もしていない。借金返済のためにあんたの船に乗ったのに、このままでいいのか不安だ」
「今はすることがないだろう? 少なくとも船内のことなら、人がやるより
と言いかけて、キャプテンは肉を口に入れて中断した。
「……いや、なんでもない」
話の続きを待ち構えていたが、彼女は言葉も飲み込んでしまった。
「なんでもないってなんだよ。気になるだろ?」
「別にいいだろ。チャッピー、次の料理を持ってきてくれ」
そうやって変にはぐらかされると、余計に気になってしまうのが常だ。
「ちょっと待ってくれ、チャッピー」
俺は部屋を出て行こうとするチャッピーを呼び止めた。
「なんでしょうか」
「教えてくれ。キャプテンは何を隠している?」
出会った頃から不思議だったのだが、チャッピーは困っている人間に対してはフェアだ。
普通は主人であるキャプテンのことを優先すべきなのに、俺の味方になってキャプテンの身を危うくさせた前科もある。
彼女なら教えてくれるはずだ。
「チャッピー、余計なことを言う「頼む、教えてくれ!」」
キャプテンの静止する声をかき消して、チャッピーに目で訴えかけた。
俺も負けじと、両手を合わせて
「分かりました。キャプテンが伝えようとしていた秘密を、お教えいたします」
「よっしゃ! さすがチャッピーだ。よっ、誰もが目を奪われていく君は完璧で究極の
キャプテンは舌打ちしながらテーブルを叩き、それ以上は何も言わずに外方を向いた。
観念したのか、妨害をするつもりはないようだ。
「では食事と共に、お楽しみください」
彼女がそう言うと、側面の壁に映像が映し出された。
前にも見たような再現VTRだ。
今度はチャッピー視点ではなく、船内の監視カメラらしい。
チャッピーは一言、前置きを加えた。
「落ち着いて聞いてください。実はヒイロ様はもう一度死んでいます」
「もう一度……って、どう言うこと?」
「1回目は自爆ボタン、2度目はこれから映像で説明しますが、そこで死んでいますので、今のあなたは3代目三宅一色です。乗船した日に採取したDNAであなたを復元しましたので、今のヒイロ様の脳内には映像の中の2代目三宅一色が宇宙で過ごした一ヶ月間の記憶がありません」
ななな、なんだと……? まだ第4話だぞ? もう俺は2回死んだのか。
「まさかまた自爆ボタンじゃ……」
「ふん、馬鹿にしないでくれ。もうあんな分かりやすい場所に自爆ボタンは配置していないよ。また君に押されても厄介だからね」
キャプテンはそう言うが、そもそも自爆ボタンは不要だろうと反論したくなったが、今はそんなことより映像だ。
「それではご覧ください。この日、我々が全滅した真相です――」
今から33日前。
俺たちは最大のピンチを迎えることになる――
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