第5話 幼馴染に遭遇
「ここですか?」
「うん、そうだよ」
いつ来ても思うのだが、フードコートエリアは色々な料理の匂いが漂っているため、早く食べたいという気にさせられる。
このエリアで食欲がそそられない人などいるはずがない。
フードコートに着いたのは良いのだが、何を食べよう。
ティナは何を気にいるだろうか。何を食べたいか聞いても、ティナはそもそもこの世界の料理を知らないから答えられない。
そんな俺の考えを察したのか、ティナは俺の顔を覗き込みながら笑顔をみせて言う。
「私、璃空の好きな料理が食べてみたいです」
「俺の?」
「はい、璃空がどのような料理が好きなのかも気になりますし」
「本当にいいのか?」
「はいっ」
ティナは俺の好きな料理を食べたいと言ってくれた。
正直その申し出は助かる。
「それじゃ、ここだね」
「とてもいい匂いがしますね」
俺たちはフードコート内のカレーの店の前まで移動した。
そう。俺の好きな料理というのは、カレーである。
俺は小さいころからずっとカレーが大好きだ。
ティナも気に入ってくれるといいな。
カレーだけでも多くの種類が存在するが、ティナにとっては初めてのカレーだ。だから、ここは
♢
「はい、持ってきたよ~」
「おお! とても美味しそうです!」
注文から10分ほどで料理ができたようで、呼び出しベルが鳴ったので取り、持ってきた。
初めて見るカレーライスという料理にティナはとても興味を持っているようで、目をキラキラさせている。
「それじゃ、早速食べようか」
「はい!」
「いただきます」
「……? い、いただきます」
ティナは俺が両手を合わせて、「いただきます」という姿に困惑しながらも真似をしていた。
そうか、これは日本特有のものだったよな。
異世界から来たティナが知るはずもないか。
それでも、真似をしてくれてた。うん、可愛い。
「やっぱり、いつ食べても美味いなぁ」
「んっ!? 少しピリッとした辛さはありますが、とても美味しいです!」
「お、気に入ってくれたみたいだね。辛すぎない? 大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
どうやらティナはカレーライスを気に入ってくれたようだった。
自分の好きな料理を幸せそうに頬張っている姿をみると、いつも以上にこの料理がおいしく感じる。
俺たちはその後もカレーライスを堪能していたのだが、突然背後から誰かに肩を叩かれた。
「ん?」
俺が後ろを振り返ると、よく見知った顔がそこにはあった。
男女ともに人気があり、いつも元気な俺の幼馴染である水瀬優香だ。
「璃空……だよね?」
「うおぁっ、なんだ誰かと思ったら優香か。今朝の電話ぶりだな」
「今朝の電話ぶりだな、じゃないよっ! そこの絶世の美女は誰なの!?」
「あ、あー……」
そりゃ、気になるよなぁ。
こんな美女、普通いないもんな。
だけど、なんて説明したものか。
何かそれっぽい理由を作るべきか?
いや、それだとすぐにバレてしまいそうな気がする。
色々考えたが、何も思いつく気配がないので、俺は素直に真実のみを話すことにした。
「早く教えてよ璃空」
「わかったわかった。言うから、信じてくれよ?」
「ん? うん」
「今朝の電話の内容覚えてるか?」
「あー、璃空が寝ぼけて魔法陣が出たとか言ってたやつね」
そうだった。優香は魔法陣のことすら信じていないんだった。
「あれは、寝ぼけてたんじゃなくて本当だったんだよ。そして、その魔法陣から出てきたのが目の前にいる絶世の美女だ」
「はあ? 璃空、本当に頭でも打ったんじゃないの?」
「だったら、優香は今までこんな美人見たことあるのかよ」
「いや、それはたしかにないけど……」
俺と優香の会話を目の前で聞いているティナは俺がティナのことを絶世の美女と紹介したからか、手が顔を覆い隠しながら照れていた。
というか、今はティナ本人の助けが必要だ。
優香は俺の言葉だけでは信じてくれなさそうだ。
俺はティナに説明の手伝いを頼む。
「ティナ、手伝ってくれる?」
「手伝い……ですか?」
「うん、この人は俺の幼馴染の優香っていうんだけど、ティナのことについて教えてあげてくれる?」
「自己紹介したらいいってことですか?」
「まあ、そうだね」
ティナは優香の方を向き、自己紹介を始める。
「初めまして。私は、ティナ・アーネットと言います。イヴアセスト帝国というところから来ました。どうぞよろしくお願いします」
「イヴアセスト……?」
「はい、恐らくこの世界とは違う世界にある国ですね」
「違う世界???」
優香は混乱しているようだった。
まあ、そういう反応になるよな。違う世界にある国から来ましたなんて言われたら、ね。
優香は混乱しながら俺の方を見てきた。
「ティナは異世界から来たんだよ」
「え、異世界ってそんなわけ……」
「優香、こんな可愛い子の言うことが信じられないっていうのか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……。あー、もうっ! わかったよ、信じればいいんでしょ!」
「そうだ、それでいいんだ」
優香は渋々ではあるが、信じてくれた。
まあ完全に信じたわけではないだろうが。
「もう何が何だか……」
優香はそんなことを言いながら自分のカレーの注文に向かった。
まさか、ここで一緒に食べるつもりなのか?
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