第3話 惚れられる
「本当に良いのですか?」
「何のこと?」
「璃空の家に一緒に住むことについてです」
「もちろんだよ。ティナが良いならね」
「私としてはこれ以上ないくらい有難い話なので、断るはずがないですっ!」
「それなら、よかった」
ティナは俺の家に本当に住んで良いのか再確認をしてきたが、俺が彼女を拒むはずもない。むしろ、一緒にいてほしいとすら思っているから。
ティナには今まで辛い生活をしてきた分、幸せに満ちた生活をしてほしいと心の底から思っている。
そうと決まれば、外に出て色々な場所を案内してあげようかな。
あ、でも、その前にティナに着せる服などを用意しなくてはならないな。さすがにその綺麗なドレス姿で外に出ては周りからの視線が痛い状況に陥ってしまいそうだ。
俺はクローゼットの中からあるものを探す。
「璃空、何を探しているのですか?」
「ん? ティナが着られそうな服がこの辺にあったと思ってね」
「えっ、良いのですか?!」
「さすがにそのドレスのまま外に出るわけにもいかないからね」
「外に連れて行ってくださるのですか?」
「ここに住むならどこに何があるのか知っておいた方が良いだろう?」
「はいっ! ありがとうございます!」
俺が外へと連れて行ってくれるということに気が付いたティナはまるで花が咲いたかのような笑顔をみせた。
「お、あった!」
「これを着ても良いのですか?」
「この服とズボンはティナにあげるよ」
「いいんですか!?」
「もちろん」
「ありがとうございます! でも、どうして璃空さんがこのような可愛らしい服をお持ちなんですか? みたところ、この家に璃空以外の人は住んでいないようですし……」
俺はクローゼットから見つけ出した女性用の服とズボンをティナに渡したのだが、どうして俺のクローゼットから女性用の服が出てきたのか不思議に思ったようだった。
答えを言うと、その服とズボンは俺が買ってきたものではない。
幼馴染の優香がこの家に泊まりに来た際に置いて帰ったものだ。その後も何度かこの家に来たが持ち帰る様子がないので、もう要らないということだろう。
だったら、ティナにあげても問題ないだろう。
まあ、ティナのためだ。許してくれ。
「その服とズボンは、俺の幼馴染が置いていったものなんだ。何度言っても、持って帰らないからティナが使っていいんだよ」
「本当に良いのでしょうか?」
「いいんだよ。次に会ったときに俺からも言っておくから安心して」
「それなら、わかりました。有難く使わせてもらいますね」
「うん。そっちの部屋で着替えておいで。俺はここで待っているから」
「はい、わかりました」
俺は、ティナが別室で着替え終えるまで椅子に座りながら待った。
「着替えてきました」
「お、サイズはちょうど良いみたいだね。よかった」
着替えを終え、部屋から出てきたティナはドレス姿のときの美しい雰囲気とは違い、今は可愛らしい雰囲気を醸し出しているようだった。
服装だけでもここまで雰囲気が変わるものなんだな。
それに、サイズが合っているようで本当に良かった。
「着心地は大丈夫?」
「はい、とても動きやすいです。元いた世界では、このような服は着たことがなかったんですけど、気に入りました!」
「それはよかった。準備もできたことだし、早速外に行こうか」
「はいっ! とても楽しみです!」
嬉しそうな表情のティナを見ているとこっちまで嬉しい気持ちになってくる。
そんなことを考えながらドアを開けようとしたとき、ティナが「一つだけいいですか?」と聞いてきた。
俺は不思議に思いながらも了承する。
「えっとですね……」
「うん」
ティナは頬を紅潮させながら、とても言いづらそうにしていたが、すぐに決心した表情になる。
「あの、もしよろしければ手を繋いでもいいでしょうか?」
「……はいぃっ!?」
「やっぱりダメですよね! ごめんなさい! こんな女なんかと繋ぎたくないですよね! 本当にごめんなさい! 今のは忘れてくださいっ!」
ティナは手を繋ぎたいようだ。
予想外のお願いに驚いたせいで、ティナは俺が手を繋ぎたくないのだと思ってしまったらしく、早口で謝ってきた。
ティナのような美人と手を繋ぐのが嫌なはずはないんだけどなぁ。
「予想外のお願いだったから、ビックリしちゃっただけだよ。手を繋ぎたくないなんて思ってないよ。むしろ、繋ぎたいよ」
「本当……ですか?」
「本当だよ。でも、ティナはいいの? 俺なんかと手を繋いでも」
「はい! 璃空と繋ぎたいんです」
「理由を聞いてもいい?」
「えーっと、本当に単純な理由ですけどいいですか?」
「うん、いいよ」
やばいな。
嬉しすぎる。
俺は自分の心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。
そりゃそうだろう。こんなに可愛くて心優しい子に手を繋ぎたいなんて言われたらこうなってしまう。
「私……璃空に惚れてしまったかもしれません」
「っ!?」
「会ったばかりなのに何言ってるんだと思うかもしれないですけど、本当です。家族以外で周りからこんなに優しくしてくれた初めての人なので……。それに……とてもカッコいいです」
「え、ほ、本当に……?」
「はい、本当です。それに、チョロいと思ったかもしれませんが、初恋ですよ」
ティナが俺に惚れている?
そんなことが起きていいのか?!
俺の頭のなかは混乱していた。
だけど、ティナは嘘をついていないようにみえる。
それに、あんな可愛い声で初恋なんて言われたら好きになっちゃうって!
ん?
チョロいのって、俺なのでは?
「あ、ありがとう……それじゃあ、繋ぐ?」
「はいっ!」
俺はティナと手を繋ぎ家を出た。
ティナに惚れられたことにより、俺の顔は過去一真っ赤になっていることだろう。
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