救助

.。o○


 翠夢はいったん泳ぎを止め、瑠璃に目を合わせる。そして、上を指す。

「(プールに落ちた人が居る。他の人を呼んできてくれ)」


 抱き合いながら泳ぐのを止め、瑠璃は水面の方を見る。びっくりして息を吐いてしまうが、すぐに翠夢を見て頷く。

「(うん。わかったよ。頑張って…)」


 瑠璃は水面に浮き上がり、プールサイドに出る。水中マスクとシュノーケルを外し、度付きゴーグルに付け替え、監視員を探す。幸い、すぐに見つかった。

「あの!」

「何ですか?」


 監視員は男の人であり、瑠璃にとっては簡単な相手ではない。震えてしまうが、それが監視員が怖いからか、別の要因なのかはわからなかった。それでも…


「あっ…プールに、子どもが落ちてしまって…」

「なんだって…どこら辺だ?」

「あの、少し泡が出ているところ…付き添っていた人がまだ水中にいます」

「ありがとうございます。すぐ助ける」


監視員などが飛び込んでいった。


.。o○


 瑠璃が浮き上がっていったあと、翠夢は…

「(…急いで、あの子を助けなければ)」


 潜水してから少し時間が経ってしまった以上、早く行動しないと、落ちてきた子も自分も危ないだろう。落ちてきた子を何とか浮上させ、息継ぎさせないと。


 まずは真下に泳ぎ、下から上に浮上するような感じで子を助けようとしてみる。しかし、これは上手くいかない。この子の身体に下手に触ってしまえば、大暴れするのは間違いなく、場合によっては道連れになるのを知っていたのだが、少し当たっただけで暴れて浮上させることがままならない。この方法は失敗、次の方法で対応する。


 「(瑠璃…頼む…急いでくれ、あまり時間が…)」


 次は、本来やるべきでなかった引き上げを行う。少し動きが緩やかになっているように見えるので、手を引っ張ればうまくいくかもしれない。翠夢はマスクに残った空気を鼻から一気に吸い、シュノーケルを口から外す。万が一に備えて。これで決めるしかないと考えたのだが…


 実際に動くも、手を繋いだとたん、この子に引っ張られる。まともに泳ぐことすら出来ないほどに大暴れされ、助けることが出来ない。一度顔に軽く平手打ちをしても、水中では勢いがなく止めることはできない。

 「(駄目だ…この判断は俺も間違っていた…)」

さらに大暴れの影響により、マスクがずれて水が入ってしまう。これでは水中の状況もわからなくなる。何とか浮上することも出来ない。さらに、瑠璃より長かった息の止めも限界を迎えつつある。胸の痛みを抑える方法はない。


.。o○


 やはり救助方法を学ぶべきだったかと、反省と後悔が沸き上がる。この子も助けられず、瑠璃も志半ばで守ることもできず失う…そう考えた時、水の音が響く。


「(何だ…こっちに来てるか…)」

 もう動くのが難しくなっていたが、その時、何者かに引き上げられていることに気が付き、間に合ったことが分かった。そして水面に何とか浮上した。

「はぁ…げほっごほっ…あの子を…」


 翠夢は、プールに落ちた子をやってきた監視員に任せつつ、自分で何とかプールの縁まで泳ぐことができた。そこには瑠璃がおり、何とか引き上げてもらい、プールサイドに出ることが出来た。


「はぁ…げほっ…はぁ…」

「…あの、大丈夫ですか…」

「それはあの子に言ってくれ。俺は何とか意識を失わなかった。それよりも、ちゃんと対応してくれたんだな、ありがとう」

「あ、一応意識は回復してます。家族と一緒に…まあ、少し落ち着き始めたら会って見ましょうか」

「そうだな」


 2人は、状況が回復した後、救助した子と家族に会って話すことにした。大丈夫だと思うが…


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