第十九話 思い当たる節は……あります その3
◇◇◇
「お帰り……なさい」
少し神妙な顔をしたマリアさんがお出迎え。このパターン、つい最近あった記憶がする。
「神様がお呼びです。ライトくん、今度は何やったの?」
「思い当たる節は……あります」
不安そうなマリアさんと少し呆れてるミリアさん。隣のミリアさんはカウンターの上で気怠そうに頬杖をついている。ちなみに柔らかそうな推定Gカップはカウンターの上に乗っている。
「いってらっしゃ〜い」
ミリアさんからの激励を聞いても、今から説教だと思うと疲れがどっと出てくる。
「お風呂入って一度寝たいんですが……」
「ライトくん、ダメよ」
「そうよ〜、ダメよ〜」
ダメらしい。クソデカ溜息を吐いてからリュックをドサっと降ろす。ガシャンという音にマリアさんが反応した。
「ライトくん、それなーに?」
流石だ。煩悩に正直なのか煩悩に支配されてるのかは判らないが、コインの音なんかを見分けるのが得意なマリアさん。ニコニコ笑顔でこちらを見ていた。
「すみませんが、神様のところに行ってる間、絶対に中身を見ないでください」
「えーっ、中身なんなの〜。教えてよ〜」
顔がほんのり赤い。お金の匂いを感じたのか少し興奮しているようだ。ある意味可哀想なので、ここは嘘を吐いておくことにする。
「全てスライムの死骸です」
嘘は言ってない。ささっと離れるマリアさん。
「何でそんなモン持ってくるのよ〜!」
「いえ、掃除してきたんです。あとでゴミ捨て場に捨ててきます」
ミリアさんはジト目でこちらを睨んでる。何となくバレてる感じがした。
「もーっ、早く戻ってきてよ! アイツら、私嫌いなんだから」
女の子がゴキブリを苦手とするのはどの世界でも共通らしい。
「じゃあ、ちょっと行ってきます。ミリアさん、マリアさん見張っといてください。まだ生きてるのもいるかもしれないんで」
「見ないわよ!」
憤慨するマリアさんと呆れてるミリアさん。
「ライトくん、乗ったげるわね〜、んふふ」
二人を置いて、また謁見の間に入っていった。
◇◇◇
「わしゃ神様じゃ」
「……もはや持ちネタに聴こえてくるな」
こちらがイメージする神様のままの姿。いつもの白髭のジジイが目の前に居る。ニコニコしてこちらを見ていた。
「ほほほ、またやってくれたな」
「こちらは特に何かをやろうと思ってる訳じゃないですからね!」
不安から少しだけ口調が強くなる。しかし柔和な表情を変えない神様にささくれだった気持ちが少しだけ穏やかになった。
「あの部屋を見つけた冒険者はこの百年ほどでも数えるほどしかいないぞ」
壁全体がみっしりと染まる映像を頭に思い浮かべてしまう。黒光りした無数の物体。当たり前だが其々に触手と脚が付いている。
それらが自分の身体を這いずり回る様まで想像すると、またも背筋が凍り全身に鳥肌がたった。
「一体何の目的で、あんな悪趣味な部屋を――」
「――あの部屋でスライムを育成してこのダンジョン全体に供給していたのじゃよ」
こちらの質問を遮って解答をくれた。
「育成って……」
「お前の世界の言葉で言うと、『セントラルキッチン』じゃな」
「キッチン……うっ」
キッチンという言葉からスライム達が口から侵入する様を想像すると、疲れもあってか強烈な吐き気を催す。
神様はそれを無視して話を続けてくれた。
「アソコにおったスライム達全てを殺戮できたのは、お前だけじゃぞ。火責め、水責め、煙り責めには対処済みじゃ」
「へっ? そ、そうだったんだ……」
「ほほほ、ありゃ凄いな、お前達の世界の毒薬か、アレは?」
目の前の神様は心の底から誉めているようだった。
(どちらかというと、楽しそう……という感情が正解かな。何にせよ怒ってはいなさそう)
ほっと安堵のため息をつく。
「そうですね。アレと似た生物が現世では目の敵にされてるから。殺虫剤も常に進化してるんですよ」
「そうかそうか。では、『殺戮者』の称号を与えよう」
「へっ?」
なんか突然表彰されてる感じに思えた。
「殺戮者? それは何ですか?」
「称号じゃよ。特定のクエストを達成すると与えられる肩書じゃな」
なんか物騒なのを突然貰えた。
「条件は――」
「――特定の種のモンスターを十万匹以上殺害すると与えられるんじゃ」
「十万……もっと多かった――」
「――そうじゃ。だからお前はこの世界初の『S級殺戮者』じゃ」
「……ヤベー奴みたいだな」
「ほほほ、なかなかにヤバいじゃろ?」
少し二人で笑い合う。
「S級が付くと特殊スキルが与えられる。お前にはレアスキル『身分詐称』が与えられた」
「えっ、それはどんな能力を持ってるの?」
それは気になる。
「ほほほ、スキル『身分詐称』は鑑定スキルで見えるステータスを自由に偽装できるんじゃよ」
「それは……この世界では禁断の技じゃないのか?」
ジロリと睨む神様。少し威圧される。
「そうじゃよ。クエスト達成できる者が現れること自体が想定外だったんじゃ。ほほほほ」
笑い出したので安心する。
「ほほほ、あまりに強い者はいつの時代も悲劇的な末期を迎えるものが多かった。不憫じゃから
「それは悲しいな。しかし……思ったより色々と冒険者のことを考えてるんだ」
「ほほほ、誉めとるのか? そうじゃよ。色々と考えてダンジョンを構築しとるんじゃ。シャホを舐めちゃいかん。だからあの扉がまず見つからんようになっていた。全く……ホントによく見つけよったな」
「へへへ」
暫し二人で和やかに会話する。
「……さて、あの扉は封印じゃ。あの部屋一つでこのダンジョンのすべての階層にスライムを派遣しておったんじゃが仕様変更するとしよう。小部屋を各階層に作ることにした」
「それが良い。あの部屋は本能的に虐殺したくなる」
「まったく、想定外なことばかりじゃ」
この面談も終わりの雰囲気が漂ってきた。
「ちなみにじゃが身分詐称の隠蔽スキルは自分よりレベルの低いものしか効かんからな。気をつけい」
「いや、ダメじゃん。俺レベル1だぜ?」
ニヤリとする神様。
「お前が倒したスライムの数は百四十三万一千百七匹じゃよ。経験値は百五十万を超えちょるわ」
「へっ?」
「レベル六十八じゃぞ」
「はぁ?」
「ほれ、ステータスを山ほど上げられるじゃろ」
瞼を閉じると三百四十というステータスポイントが表示されている。スキルポイントも残り千と少しだったのに千四百近くに増えていた。
「マジか……地道なレベル上げ作業が……無くなった」
「何で悲しそうなんじゃ?」
(くそぅ。レベル上げ作業の侘び寂びを経験できなかった……これは効率厨には分からんよ!)
少しだけ涙が出そうだ。序盤でレベルが高くなりすぎたロールプレイングゲームなど興醒めだ。
「幼馴染の住むアパートに初めて入ったらエロ下着に身を包んでベッドの上で手招きされたみたいな感じだ。過程が大事なんだよ、過程が!」
「ホントに拗れとるのう……まぁ良い。あと、魔石、特に
「えっ?」
そういえばやたらに綺麗な魔石が二個ほどあった気がする。リュックの奥の方のポケットにしまっておいた。
「魔石の出現率は通常モンスターの場合は千分の一じゃ。その千分の一で出現するのがSR魔石じゃ」
必死に計算する。
「えーっと100万分の1ですよね……ってことは0.00001%? おい、極悪ガチャだな、その確率」
「コンプガチャよりマシじゃろ」
何故にそんなものを知っているのか……というところで思いつく。頭の中を全て見られてるんだった。
「そういうことじゃ。ほほほ、大体からして、それを二個出現させるんじゃから、どちらが極悪じゃ?」
「へへへ」
百四十万回ガチャ引いて、百万分の一を二個引けたのは誉めていい引きか。
「エリアボスを倒しても
「価値は?」
ニヤリとする神様。
「ふーむ、R魔石の千個分と聞いたぞ」
「三十万の千倍? えーっと……三億……」
「ほほほ、お主、富豪じゃな」
マリアさんがエロ下着で手招きする姿が目に浮かぶ。それどころかミリアさんもセットでベッドの上にいる。
「マジか……」
◇◇◇
衝撃の事実が何個もあったのでぐったりしてしまう。ヨロヨロと部屋から出てくると、二人は少し心配そうに近寄ってきてくれた。
「どうだった?」
じっとマリアさんの顔を見る。
「そうだ」
何も言わずにステータスを隠蔽する。偽装するステータスが頭の中に浮かぶ。
(そうだな……レベル1に設定しておこう)
「ステータスも変わらずね。どうしちゃったの?」
刹那に声を掛けてきたマリアさん。いつの間にか鑑定ポーズをしていた。
(病気や体調不良も分かるらしいから善意から……だと思うが、勘が鋭いというか、何というか)
「ギリギリセーフ……」
「えっ?」
「なんでもないです。少し疲れたんで一旦帰りますね」
ヨタヨタしながらリュックを担ぐ。ジャラッと固いものが沢山入った音がした。それを不審そうに見つめるマリアさん。
「ねぇ、それホントにスライムの死体なの? 何か隠してるんじゃない?」
少し不審そうな顔のマリアさん。スライムは見たくないが、リュックの中身は何かお金になりそうなものと怪しんでいるようだ。
少しだけマリアさんの顔を見つめる。
(金の切れ目が縁の切れ目、なんて良く言う格言だ。逆もまた然り……)
「マリアさん、今からお見せするのは大変に刺激が強いと思います。でも頑張ってくださいね。僕はマリアさんが好きなんです。だから信頼してますよ」
突然の告白に近いセリフにギョッとするマリアさん。
「ど、どうしちゃったのよ、ライトくん……」
マリアさんを真剣に見つめる。ミリアさんもこちらの雰囲気の違いに気付いたようだ。
(おねショタ日常モノらしい緩い雰囲気が好きだった)
ミリアさんに軽く頷くと、何となく理解してくれたのか頷き返すと扉を閉めて鍵をかけてくれた。
(エロハーレムも好物だけど、正直R15くらいが一番幸せを感じる)
重たいリュックをカウンターに置いた。ガシャンと硬い音が響いた。
「このリュックの中身を全て預けます」
「えっ?」
真面目な顔でリュックの蓋を開ける。中に入っているリュックとほとんど同じ大きさの袋を取り出すと、それをカウンターに置いた。ガシャンと硬いものが擦れる音が響いた。
そして袋を結んでいる紐を外す。マリアさんも異様な雰囲気に息を呑んでいる。
「こちら全てをシャホに預けます。お願いします」
「は……はい」
マリアさんが袋を開けると中には魔石がぎっしりと詰まっていた。
「ひっ……」
キラキラと自らの魔力で怪しく光り続ける無数の魔石達。袋からジャラッと手で掬うと掌の上で輝きマリアさんの顔を照らした。
「ライトくん……こ……これは……」
「千個以上あると思います。中にはレア魔石と――」
「えっ?」
「――SR魔石が二個入っています」
びっくり顔のまま固まるマリアさん。掌の魔石をカウンターの上にそっと置くと、もう一度袋の中に手を入れた。暫く弄っていると、身体がビクッと痙攣してから動きを止めた。
「こ、これ……」
震えながらこちらをじっと見つめている。白魚のような手が袋から出てくると、その掌の上には一際大きく、一際強く光り輝く魔石が二つ乗っていた。
「へ〜、私も初めて見るわ〜」
「こ、これがえ、え、えSR魔石ーー!」
流石にミリアさんもうっとりしている。逆にマリアさんは震えながらじっと見つめることしかできない。
「全部預けますね。お願いします」
軽く頭を下げると、マリアさんがゴクリと喉を鳴らした。
「わ、わわ分かったわ。み、ミリア! トレイと金庫の用意、お願い」
「うん、任せて〜」
二人がテキパキと動き始めた。マリアさんは白い手袋をはめるとミリアさんが持ってきたトレイに大きさや光の強さで仕分けしていく。
「A+が一つ、A+がもう一つ……これはB……」
思ったより真面目に仕事を始めた。銀行員っぽい二人に感心してしまう。ポンコツなマリアさんの真面目な一面が見れたことが、何故かすごく嬉しかった。
ふと、何故か豪華な花々をバックに二人がキラキラ光っているイメージが見えた。今までのマリアさんの中で一番綺麗に見えたが、これは仕事が落ち着いたら教えてあげることにしよう。
◇◇◇
三十分ほどで仕分けは終わっていた。
「ライトくん……評価額は本部で鑑定してもらってからね。ノーマル魔石が千三百七十四個。レア魔石が四十二個、スーパーレア魔石が二個、壊れ魔石が十八個ね」
「は、はい……」
「これだけ高額だと移動するにも保険を使うけど、多分半分ほどしか補填できないと思うの。だからこのことは誰にも言っちゃダメよ。奪われたり盗まれたら全額は戻ってこないからね」
「あっ、はい……」
マリアさんのしっかりお姉さんっぷりに感動する。お仕事完璧系だけどショタと会った時だけフニャフニャになるお姉さんが最も心の琴線に触れるシチュエーションだ。
少し感動の眼差しで見上げる視線が不思議そう。
「ん? なーに?」
「えっ、な、なんでもないです!」
「ふふふ、変なライトくん」
テキパキ書類を書きながら注意事項を教えてくれた。ミリアさんがSR魔石を小さな金庫に入れようとした、その時、鍵のかかった入り口の扉が内側に弾け飛んだ。
「ひぃっ!」
「な、なによ〜!」
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