パートタイマー降格から始まるハーレムライフ〜でも現実世界も異世界も非正規雇用って厳しくないですか〜【パリィと超必が俺の生活費と『おねショタ』を救う!】
第四話 わしゃ神様じゃ、なんて言い出す男 その1
第四話 わしゃ神様じゃ、なんて言い出す男 その1
『わしゃ神様じゃ』
(神様だってよ)
視界に入っているジジイ、どうにも胡散臭い。オカルトは好きだが現実としては懐疑的な俺くん。神様にしては威厳が無さ過ぎる。
「そのまんまかよ、捻りが無い」
ツッコミを入れたつもりだったが自分の声が聞こえた感覚が無い。身体を確認しようと思ったが手足が見えない。
(ん? この視界……はっ、分かった!)
「VRだな?」
したり顔で神様風のジジイに指摘……したつもりだが、ゴーグルをしている感覚も無いし、そもそも身体の感覚自体が無かった。
少し黙り込む。意識不明でベッドの上で白昼夢か、脳にケーブルを挿されて電脳化されたか。
『俗に言う異世界転生じゃよ。夢なんぞでは無いぞ』
とんでもないことを言い始めた。でも一番しっくりする気がした。
(そうか……ダンプに轢かれなくても転生するんだ。あっ、ということは……まぁ、そうなんだろうな)
思い出すのは同期やパートさん達のことだけ。悲しませるとなると、やはり申し訳なくなる。
(あっちの世界の俺は自殺に成功して――)
『――死んどらんぞ。転生者はボーナスで死亡がチャラになるんじゃ』
「俺の回想にツッコミを入れるなよ! いや、混乱してきた……」
(考えたり喋ったりしてると思ってるのは俺だけ……なのか?)
『そうじゃな。こちらから見ると魂が球状に纏まっているだけで形を成してはいない。意思疎通は……そちらの言葉だとテレパシーと言うのか?』
一応理論は破綻していない。夢だと大体展開がめちゃくちゃになっていく。
「なら、俺は何か目的を背負わされるのか?」
魔王を倒せ、とかが定番だよな……そういえば、向こうの世界にも魔王が居た。
(とびきりの最悪なヤツがよ!)
考えただけで何となく身体が小さくなった気がした。
『人手不足じゃ。未婚率の上昇と高齢化はこの世界を蝕んどる』
「はぁ?」
ちょっとイメージと違う。
『ワシはシャホの責任者じゃ。シャホとしても抜本的な対策を求められ政策を変更したのじゃ』
「っ! 世知辛い。そして社保……ここでも社会保険に苦しめられるのかよ」
パートの天敵、それは社会保険。一生懸命に働くと一割手取りが減るという素敵な制度。他にも敵は居る。例えば
(あぁ、社保の為に俺の残業は毎月十時間増えたんだ)
「社保が俺に何をさせるんだよ。
『違うぞ。
「……ま、紛らわしいんだよ!」
互いに黙り込む。
こちらは不信感。向こうからはどう説明しようかな、という困惑を感じた。
『ワシらシャイニング・ホーリー庁、略してシャホは転生勇者を管理しておる。さっきも言った通り人手不足は深刻じゃ』
「それで、俺達を召喚して何をさせてるんだよ?」
何かを隠しているようなら、出来る限りで譲歩を取り付けたい。しかし……考えることしかできないから思考がクリアで頭の回転がいつもより早いのを実感できる。
(とはいえ……そうだよな。頭の中を直接読まれてるんだった)
『んほんっ。まぁ、ここまで冷静に対応できるのは珍しい方じゃよ』
少し睨み合う……睨み合えてるのか?
取り敢えず視線をジジイに向ける……向けれてるの?
気にするのは止めよう。
「もう一度聞く。何をさせたいんだ?」
『ダンジョンの世話じゃよ』
即答された。意味は分からない。単語の意味は分かるが、文章の意味が分からない。
すると、頭の中で渦巻いている疑問をすぐに答えてくれた。
『里山の世話みたいなものじゃ。適切に魔物を減らし、地図を作り、危険箇所を適切に管理することじゃ』
イメージが一気にできた。
『まぁ、最近はダンジョンの出現率も落ち着いてきたので、中途採用も控えておるが、有望株の出現に我慢出来んかった』
「まるで転職……アンタらはリクルーターなのか?」
『ふむ……そう思ってくれて良いぞ。そら、どうせ『護り手』になる前に説明を受ける。このくらいで良かろう』
死んだら異世界の中途採用に引っかかったということらしい。一応納得しておくことにした。
「分かったよ。どうせ向こうの世界を一度は見限ったんだ。こちらの世界でも役目があるなら全力でやってやるぜ!」
気合を入れる……と、ここでジジイが逡巡している。
(何故に言葉を濁す? 何故に斜め上を見て視線を合わさない?)
『というわけで、転生勇者は余り気味で、パートタイム制に移行しておる。日当たり五時間勤務が限界じゃ。週二十時間以内に勤務を抑えて欲しいので四日勤務じゃな』
「ここでもパートかよーー!」
悪夢を見ているだけな気がしてきた……。結局シャホに運命を遊ばれてるのか。
『正勇者目指して頑張ってくれたまえ。君ならすぐに正式登用される筈じゃ』
転職エージェントだと思ってたら派遣の営業みたいなこと言い始めた。やっぱり胡散臭いったらありゃしない。
『んほんっ。さて、何故かチキュウの転生者はチートと呼ばれる人外の
(
「そりゃ欲しいだろ。必須だよ!」
『ふむふむ、では三個まで汝の願いを叶えよう』
この台詞だけ威厳たっぷりに言ってきた。やっぱり向こうとしても見せ場なのかな?
いや、無駄なことを考えるな。
(ここが勝負の分かれ目! 間違いなく今後の人生を変えるキーポイントだ。ここで間違うと
スキルの王道と言えば『火、水、土、風』の四大元素。それから大体は最強能力扱いの『重力』。『回復』もステキだ。平和になっても食いっぱぐれは無い職種だろ。
最近の裏の王道といえば『鑑定、錬金、テイマー』の三つだ。これも捨て難い。『栽培』や『魔法付与』とか『スキルメイク』も流行りだよな。
(はっ、閃いた。スキルを使える魔物を『召喚』出来れば全部オッケーじゃないか?)
――ここで、全ての冷静な思考を打ち消す強烈な欲望が現れた
(そうだ……俺には夢があったんだ!)
目を一度瞑る……瞑ってるのかな? 精神を少しの間だけ落ち着ける。それでも答えは変わらなかった。
「決めたよ」
『ほほう。皆が半日は悩むチート選択を一瞬で決めるか。流石はワシが見込んだだけのことはある』
もっと悩んでて良いらしいが、もう決まってしまった。
(しかし、本当に……いや、もうコレしかない!)
「ガードキャンセル……今はパリィっつーのか? あれが欲しい」
『えっ?』
「あとバレットタイム」
『えっ、えっ?』
「で、超必殺技が欲しい」
少しだけ呆然とする神様。
『召喚とか要らないの? ドラゴン呼んだり出来るしカッコいいよ』
召喚はかったるい。確かにカッコいいが、アレは悪役が使ってこその技だと思う。
やはり
俺の夢、肉弾戦からの超必殺技。
(長年の妄想で考え抜かれた俺のチートはどうだ!)
想像するだけで震える。激アツだ。
『
「…………はぁぁ?」
バカにされた?
心底ムカつく!
「はっ、シャホ庁も大したことねーな」
これは本心。思わず口から出てしまう。すると、ギロリと睨みつけられた。
『何だと、チート舐めんな! そんなモン作ったるわい』
何か知らんが心の琴線に触れたらしい。ジジイは両手で胸の辺りの透明な何かをこね始めた。したり顔をこちらに一瞬向けると、左手にその何か透明なものを載せて、右手で指を鳴らした。
『どうじゃ!』
「おおっ……コレがチート……俺にも……俺にも分かるぞー!」
使い方が頭に正確に浮かぶ。なるほど……俺は電化製品を買ったら正座でマニュアルを熟読するタイプ。一字一句逃さず読み込むことにする。
『では、そろそろ自らの旅に出るが良かろう。幸多からんことを祈っているぞ』
ここでもう一つ思い出した。
「あれ、定番の美人女神は? 一緒に旅する感じの……」
『早よ行け』
◇◇◇
「ではぁ、みなさぁーん、よーく聞いてくださーい」
かったるい喋り方で聞いてるだけでダルくなる。
あの
しかし安らぎをしっかり感じた。
つまりは……あそこが、この世界の我が家らしい。
「はい、今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございまーす。」
今は教室のような部屋に押し込まれて『護り手』……要するに『パートタイム勇者』の説明会を受けている。老人が十人ほど、後は小学生高学年くらいの少年少女が五人ずつくらい。皆、熱心に話を聞いている。
「映えある『護り手』に選ばれた皆様、おめでとうございます〜」
(胡散臭い研修みたい……こういうのキライ)
今朝、起きて食堂に出向くとダンジョン管理課の担当という男が二人座っていた。シャホから来たとのことで、早速本日の説明会に参加しないか、とニコニコ笑顔を向けられた。天啓を受けた人が現れるとスカウトに来るらしい。どうも毎週一人くらい出現するらしく、それを纏めて説明会が開催ということらしい……。
「まずは注意事項からぁ。本日より……」
入室と同時に配られたパンフレットを先に読み込んでしまったので何を説明されるかは理解している。要するに『入社説明会』だ。寮完備らしくてボロい
「では、早速ダンジョンの見学に行きましょ〜う」
ゾロゾロと連なって部屋から出ていく年寄りと子供達。『リワーク』と呼ばれる天啓を受けた年寄り達。そして『ニュービー』と呼ばれる子供達。
通常、リワークはスキル一つ、ニュービーはスキル二つを持つとのこと。
(スキル三個の俺は一応エリート枠らしいぜ……)
「ライト君、あなたも早く付いて来なさい」
「あっ、はーい……」
大人も楽に座れる椅子からピョコンと降りて入り口で待つセクシーお姉様に飛びついてみる。
「元気良いですねぇ、ライト君」
そう。転生前の『彼女いない歴三十一年の三十一歳』は『清純派の
(ふふふ、転生前なら間違い無く事案発生だ)
柔らかなお腹に顔を埋めながらニヤリと微笑む。顔を左右に動かすと、頭頂部に更に柔らかな感触を感じる。
そう、それはもう一つの俺の夢。
――ショタになって美人のお姉さんに甘えること
あの
前世では、自らが
(俺の心の奥の……誰にも打ち明けたこともない、真の望みをいとも簡単に叶えるとは)
そろそろ離れよう。母親から離れて寂しい十歳児を演じ切らなければ。パッと離れてモジモジしながら恥ずかしそうな演技をしてみる。
「お姉さんありがとう。寂しくなったら……また会ってくれる?」
「んふふ、いつでもお気軽にど〜ぞ。またね〜」
あっさり信じてくれた。
やはり、五体投地したくなるほどの感動に満ち溢れる。奇跡を目の当たりにすると信仰が深まる。
(落ち着いたらお布施でも投げに行こう)
スキップしながら意気揚々と部屋を出て行った。
――――――――――――
【超必殺技】
格闘ゲーム『龍虎の○』を元祖とするロマンの塊。
【おねショタ】
銀河鉄道9○9から連綿と受け継がれた文化的な関係性。
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