第104話 闘技場

 その日、ロイたちは城の客間に泊まることになった。

 ロイが貴族になったのもあり、国王の厚意で用意された部屋は、豪華で快適で一行は長旅の疲れを癒やした。

 特にミンディーのハシャギ様は皆がほっこりするほどで、ドレスを着たままベッドにダイブしていた位だ。


 前日の部屋は騎士宿舎だったのが、貴族用の客間を用意されたのもあり、女性陣は目を輝かせていた。

 

 ベリーズは落ち着かないからと、騎士宿舎に移ったが。

 ロイはこの部屋って間違えてない?と思いつつ、自分も落ち着かないので騎士宿舎と言うも、女性陣からの猛反対と、男爵を騎士宿舎に泊まらせたとあれば国の名折れと執事さんに怒られていた。


「理由もなく男爵様をそのようなところに泊まらせたとなれば、この国の名折れ。どうしてもというのであれば、このキグナの命を持って進言せねばなりませぬ」


 このように言われ、諦めるしかなかった。


 何故か?4人で1室と、元々の予定から変わっていたからだ。

 ロイは元々ベリーズと同室で、女性陣が1部屋だったと聞いていた。

 ソニアたちが先程后たちと話をした結果であるが、何故?と分からないロイだ。


 ロイたちは翌日と翌々日は完全にオフとなり、ソニアたちと共に王都の観光を楽しむことにした。王都は歴史と魔法が交差する場所であり、ロイたちは古の魔法使いの塔や壮大な王宮の庭園、活気に溢れる市場を巡った。翌々日も観光を続け、彼らは珍しい魔法の品々や伝統的な料理を堪能し、一時の平和を楽しんだ。


 3日後、事態は再び動き出す。国王自らが護衛と側近、そしてギルドマスターを伴い、ロイたちと共にスライムの群生地に向かった。


 この日はロイたちの実力を示すため、そしてスライム狩りの技術を披露する実演が行われる予定だった。

 スライムの群生地は徒歩だと王都から数時間の距離にあり、到着すると国王や見物人たちは安全な距離から観察するために特設の観覧席に上がった。


 もっとも観覧席と言えば聞こえは良いが、ソニアの収納に入れていた堅牢な馬車【檻】の上に板を敷き、その上に椅子を置き、護衛が控える形だ。


 その檻も鉄板で4方を固められ、いざとなれば王を中に入れる要塞の代わりになる。


 ロイたちは準備を整え、スライム狩りを開始した。スライムは一見無害に見えるが、数が多いと大きな脅威となる。

 しかし、ロイたちのチームワークと魔法技術は見事で、スライムを効率的に処理し、見物人たちを驚かせた。


 離れたところから魔石を抜く以外に、【魔石抜き取り】の能力が上る前のやり方を見せていく。

 最初は網でスライムを捕まえて、直接触れながらしか魔石を抜き取れなかったからだ。


 今のロイには本来必要ないが、魔力的には魔石を抜き取る距離に比例して消費量が多くなるので、正直なところ可能なら触れて抜き取りたいところだ。


 翌日、国王は更に大きなイベントを企画していた。騎士学校と魔法学園の生徒や貴族たちを闘技場に集め、10体ほどのオークを闘技スペースに放ち晶石の舞に戦わせ、基本的に剣を使わずに血を見ることなく倒すことだ。


 オークはロイが休みを堪能している間に、高ランクの冒険者と騎士団で生け捕りにしていたのだ。


 この企画はロイたちの実力をより広く示す機会となった。

 いわゆる示威行為だ。

 闘技場は緊張で静まり返り、全員の目がロイたち5人とギルドの受付嬢に注がれた。


 最初はそこに受付嬢の制服を着たリラが、大盾を持っているのを誰もが見ていたが、誰にあの大盾を渡すのかな?何故受付嬢が盾を持っているのか?と訝しがったが、受付嬢が闘技エリアにいるままオークが放たれた為、特に王が狼狽えていた。


「ちょっと待て!何故あのリラという受付嬢がいるのにオークが放たれた?」


「陛下、晶石の舞全員と仰せでしたので。彼女はパワーレベリングの為に以前加入し、別の者が加入することがなく、パーティー登録がされたままなのだそうです」


 ロイの父がそう告げた。

 流石に公の場では友とはいえ【陛下】と呼ばざるを得ない。


 ベリーズは盾でオークの攻撃を巧みに弾き、一切の反撃をせずに防御のみに徹した。


 ミランダも慣れない大盾でオークを弾き、ソニアとエリナも魔法でオークを弾き飛ばすのみで中心にいるロイを守る。

 そしてリラも普通に大盾でオークを弾き飛ばしており、ある意味ロイよりも注目を浴びていた。

 後に【大盾の令嬢】と呼ばれ、ある意味リラの黒歴史となるのは別の話。

 皆で話し合い、あの国王を驚かせようと、文字通りリラも晶石の舞のメンバーとして戦いの場に立たすことにした。


 ギルドの制服なのは騒然とさせるためで、中心のロイを守るのではなく、実際はリラを守る。

 もっとも今のリラは技術はないが、ステータスだけならオークに怪我をさせられることはまずない。


 ロイは魔石抜き取りの技術を用いてオークを一体ずつ倒し、ソニアがそのオークを収納空間に入れていく。この光景は、観客にとって驚異的なものだった。オークは強力なモンスターであり、普通の騎士でさえ苦戦することがあるが、ロイたちは見事にこれを制した。

 しかも血を出さない縛り付きでだ。


 全てのオークが倒され、ソニアの収納空間に収められると闘技場は静まり返った。その後、突然さ拍手が鳴り響き、観客たちはロイたちの圧倒的な実力に驚嘆し、称賛の声を送った。


 国王も非常に満足した様子で、ロイたちに感謝の言葉を述べた。このイベントは、ロイたちの名声を王都全体、そして周辺地域に広めることとなり、彼らの冒険に新たな章を加えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る