第98話 叙爵
王城に到着した一行は、翌日の謁見に備え、城内で一夜を過ごすことになった。
ロイはてっきり宿に向かうものと思っていたが、領主から城に逗留するよう書状にあると伝えられた。
事前にロイたちに伝えなかったのは国王の指示で、領主はロイがどのような反応をしていたか伝えるようにとも指示が出されていた。
割り当てられた部屋は豪華な客間で、部屋につくやいなや皆メイドに囲まれ、えっ?と思う間に服を脱がされた。
そして採寸をされていく。
領主は臣下としてではなく、悪友として国王のところにロイの反応を伝え、それを肴に酒を飲み交わしていた。
夜は更け、彼らは長旅の疲れを癒やしつつも、翌日の謁見に向けて心を高ぶらせった。
謁見の日の朝、太陽が城の高い塔を金色に染め上げる中、ロイは王城の広大な庭園を抜けて、謁見の間へと向かった。ロイの装束は最高級の素材で仕立てられ、豪奢な装飾が施され、場違いだなと思う姿だ。
そして謁見の間の入口に、ロイは1人で扉が開くのを待っていた。
他のメンバーは騎士に連れられ、参列者の末席にて謁見を見る許可が出て既に中にいる。
ロイの入場が伝えられると、扉が開き、予め聞いていた通り中へと進み、そのまま王の前まで歩く。
着慣れない服なのもあり、その動きは硬い。
朝起きるとメイドたちに裸にされ、あっという間に着せられたのだ。
抗議しかけると睨まれ、されるがままに身を任せるしか無かった。
前日の採寸はこの為だった。
謁見の間に一歩足を踏み入れると、壮麗な装飾が施された部屋が広がり、その奥には高貴な姿の王が座っているのが見える。
そしてその斜め後ろに騎士が2人儀仗兵か、護衛か?立っている。
王の前で片膝をつき、予め言われた文句を発する。
「お初に・・・」
「面をあげよ。ロイよ、よく参った。そなたたちの活躍により1つの町が救われた・・・」
王は一行を温かく迎え、ロイの旅の話に耳を傾けた。王都までの道中での盗賊の撃退や、スタンピードに対処した時の話を尋ね、ロイは包み隠さず語った。
緊張がややほぐれ、王の左斜め後ろに立つ騎士の顔を見る余裕さえでき、そのうちの1人が兄にしか見えない。更に右斜め後ろに立つ父を見つけたとき、ロイは驚きとともに唖然とした。
その意外な光景に唖然とする姿に、王城での謁見が一層緊張感を帯びるものとなった。兄と父がなぜこの場にいるのか、ロイには全く予想もつかなかった。
王は、ロイの表情からその驚きを察し、彼に向けて悪い笑みを浮かべながら話し始めた。
「フォ、フォ、フォ、ロイよ、お主の家族がここにいる理由が分からず驚いているようだな。実は、お前がこの旅を通じて示した勇気と才能を、私だけではなく、お前の家族も高く評価しているのだ。彼らは、お前がこの重要な任務を帯びるにあたり、何か言葉を贈りたいと申し出てくれたのだよ。」
ロイは、兄と父の姿を改めて見た。兄は微笑みを浮かべており、父は誇らしげな眼差しでロイを見ていた。この瞬間、ロイは自分が家族から深い信頼と支援を受けていることを実感した。彼は、これまでの旅で経験した試練や困難が、ただの冒険ではなく、自分を成長させ、家族の絆をさらに深めるものだったことを理解した。
それと噂を思い出した。
王は破天荒な人で、人の驚く様子を見るのが好きで型破りなことをすると。
今回兄はともかく、父がここにいる理由が自分を驚かし、その様子を見る為になのか?とも思った。
そして王の口から発せられた言葉に絶句した。
「ふむ。まずそなたには先日のスタンピード討伐により、男爵の地位を授ける。パーティーメンバーも後日準男爵、また、これまでの功績を称え、そなたの兄を・・・」
ロイの顕著な功績が認められた際、彼の兄にも意外な恩恵がもたらされた。
兄自身は特に何もしていないにもかかわらず、ロイの功績のおかげで棚ぼた式に準男爵の地位を手に入れたのでだ。
という訳ではなく、元々何人かの叙爵を行う中、兄を近衛騎士として、今のように国王の守りの要としての役目を与えるため、叙爵されるのだと分かった。
元々優秀だったが、最終候補に上がった数名の中で検討されている中、ロイの功績が耳に入り、それにやり頭人1つ抜け出たロイの兄が選ばれた。
候補者は甲乙つけがたく、誰にするか決めるのが難航した所に、最後のカードが配られた形だ。
それと父はこれまで語らなかったが、騎士学校では国王を含め、数人でパーティーを組んでおり、懇意にしていた。
本来はもっと上に行けたのだが、本人の希望により、生まれ育った村の村長になっていた。
ロイの兄について、この事実で贔屓は出来なかったので、口実ができた形だ。
また、子爵家の令嬢との婚約も、騎士学校の時の仲間と、歳の近い子供ができたら婚約をとの約束から来ていたと、国王の口から発せられた。
何故準男爵の息子と、子爵家の令嬢との婚約がされたのか謎が解けた。
この事実は、ロイの冒険と英雄的行為が単に彼個人の名誉だけでなく、彼の家族全体にまで良い影響を及ぼしたことを示していた。
その場にいたロイの父が予言による影響で追放せざるを得なかった。
父はロイが何故婚約破棄されたのか本当の理由を知らなかった。
かつての仲間とはいえ、不遇ギフトにより、子爵家に泥を塗った形になり、殺されかねないと判断した。
領地を治めるのに苛烈なことをしていたのもある。
そこでロイの身を守ろうと、追放をしたと。
ロイが婚約破棄された本当の理由を知っていれば取らなかった行動だ。
弟は密告しかねないので、父はこっそり支援するしか無かったのだとこの後、語られた。
父の行動が深い愛情に基づいたものであったことが明らかになる。
ロイの弟は、この一連の出来事を見ている中で、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「褒美じゃが、我が娘と結婚することを許そう」
さらに王はロイに対し、彼の功績を称えて娘との結婚を提案したが、ロイは困った顔をした。
これはすぐに冗談であることが明かされた。
「冗談じゃ。この国に未婚の姫はおらぬ」
王が笑いながら言い、その場の緊張を和らげた。
これらの出来事を通じて、ロイと彼の家族は多くの感情的な起伏を経験したが、結局のところ、これらの出来事が彼らの絆をさらに強固なものにしたことは間違いない。ロイの功績は単に個人の名誉を超え、家族全体にとっての名誉となった。
兄と父が接近し、ロイに対してそれぞれ励ましと祝福の言葉を贈った。彼らはロイがこれから向かう未知の冒険に対しても、変わらぬ支持と愛情を示した。ロイは、これまで以上に強い決意を胸に、新たな任務に臨む準備が整ったことを感じた。
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