第99話 混乱
叙爵の儀式が終わり、ロイ、彼の家族やアルディス領主と宰相を伴い、王は豪華な装飾が施された別室へと移動した。この部屋は王族や貴族たちが会話を楽しむための特別な空間であり、その雰囲気は一目でその重要性を物語っていた。少しの間、王は部屋に留まったが、やがて着替えてから戻ると告げ静かに退出していった。
ロイが部屋に足を踏み入れるとすぐに、彼の兄弟たちが駆け寄ってきた。兄たちの顔立ちはロイに似ており、周りから見ても明らかに兄弟であることが分かる。上の兄、ライは謁見の間から直接来たため、儀典用の甲冑を身に纏っており、ただヘルムだけは外していた。
ロイはその甲冑がどれほどの重さかを見て取り、内心でその重さを想像した。
『動きにくくないのかな？暑くないのかな？』
「ロイ、お前何やったんだ？追放されたって聞いたのに、叙爵ってなんだよ？ハズレを引いて追放されたってギイが喜んでたけどさ、今は部屋の隅で縮こまっているようだけどな」
そんなロイの心のつぶやきはともかく、叙勲されたことを驚いた次男のガイが尋ねると、続いて長兄のライも質問した。
「お前ならどんな逆境も跳ね返すと思っていたが、想像以上だよ。今はどうやら状況が変わったみたいだね。それと借りが出来たよ。ロイのお陰で近衛騎士、それも陛下のお側付きになれたよ。ありがとう」
その時、彼らの母親と妹のエマも近づいてきて、ロイに抱きついた。
「ロイにぃ、心配したよ。婚約破棄されたの取り消しになったって聞いたわ！それにアステールに魔物が現れたって聞いて、しかもにぃが倒したってほんとに意味が分からないよ。お父さんが城に行くって言った時、本当に何が起こってるのか分からなかったし、教えてくれないところにこれよ！」
「みんな心配かけてごめん。実は俺自身も全くと言ってよいほど、どうしてこうなったのか理解できていないんだ。アステールでのスタンピードに巻き込まれた時、何とか魔石を抜き取る力で対処したんだ。でも、それがどうしてこうなったのかは・・・もうアステールの領主様から報酬はもらったし、婚約破棄も解消されたんだけど、それがどうして陛下に呼ばれたのか、高々男爵の叙爵でなぜか教えてほしいくらいだよ・・・」
ロイの言葉を遮るように、父親が土下座しようとした。しかし、儀典用のフルプレートアーマーを身に着けていたため、うまくできずに前のめりに倒れてしまった。
家族は慌てて彼を助け起こしたが、ロイはその屈強でいつも自信満々な父が涙を流す姿に心を動かされた。
そこに婚約者であるミネアが現れた。
式典のギャラリーの中にいたのだ。
「予言によるとは言え、私が悪かったのです。お義父様が謝る必要はありません」
そう言いながら土下座しようとしたが、ロイはすぐに彼女を抱き寄せて止めた。
「もう謝罪を受け入れ、婚約者に戻ったんだから必要ない。君に涙は似合わないよ」
父はともかく、大事な婚約者のフォローは忘れない。
次に父親の肩を掴む。
「立ってください。本気じゃなかったのは知っています。剣や魔法書など支援してくれたのは父さんでしょ！分かっていますから・・・」
一方、ソニアやリラといったロイのパーティーメンバーたちは、この急な展開に圧倒され、壁際でただ見ているだけだった。
そして彼女たちも前日、メイドたちにあれよあれよという間に裸にされて採寸されていた。本日は一夜で直したドレスを着せられており、慣れない格好から歩くのも一苦労していて、色々なことに対して戸惑いを隠せなかった。
しかし、ロイが叙爵したことには心から喜んだ。
「ロイ様の側にいる女性として、ロイ様に恥をかかせてはなりません」
彼女たちはメイドからそう厳しく言われていた。その迫力に従いつつも、彼女たちは王が気心の知れた者だけで話す席に(部屋に)いることに、心底から緊張していた。
このように、ロイとその家族にとっては、まさに波乱に満ちた一日となった。しかし、この一連の出来事が彼らをより強く結びつけ、不思議な形で彼らの運命を繋げていくことになるのであった。
因みに国王は隣の部屋でメイドに着替えをしてもらいつつ、こっそり部屋の様子を見て、その様子に笑い声を出すのを必死に抑えていた。
また、弟のギイは、部屋の片隅で一人さみしく地団駄を・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます