第96話 出発しようとするも
リックガント商店の工房の広間は、出発の準備で忙しなく動いていた。コナリスは最後の検品を行い、リックガントは荷馬車の点検をしていた。そんな中、領主の使いが堂々とした様子でやってきた。
「領主の要請により、ヴィーナスラヴェール、エナジーローズの小分け前のスライム本体、そしてヴィーナスジェルのサンプルを求めに参りました。これらは王への献上品として選ばれました」
使者の執事は厳かに宣言した。
特にヴィーナスジェルとエナジーローズは、献上品として強く要望されていた。ヴィーナスジェルはまだ開発中であったが、領主の奥様がテスターとして使用することを申し出ており、その申し出を断ることはできなかった。
それに伴いすでにある程度の量を渡していたため、使者からの要望に応える形で、現在手元にあるヴィーナスジェルの全てを献上品として持参することになった。
もちろん材料はロイたちが大量に確保し、領主は商会と密にしなければならないが、これは売れると、町の特産の一つになるとイチオシのようだ。
特に開発中のジェルに対し、ロイとリックガントにどのようにして欲しいか要望を添えてあった。
曰くフレーバーな香りや、甘ったるい香りがご婦人方にウケる。【男】には刺激的な香りが良いと。
中には媚薬を少量入れたのを作ってみてはと、はぁ?と言った内容もある。
もちろん執事などに作らせたのだろうが、ある意味企画書の体をなしており、それを見たコナリスがクネクネしていたのは謎だった。
領主からの書類には、ジェルについて添加する物を変え、夜の物を扱う商品になるよう開発し、そちらは商会に卸すことについての変な指示がある。
しかし無視もできないので、検証をどうするか悩む。
誰かに夜の営みに使ってみて、その感想を!などと聞けない。
なので、夜の営み用と言われロイは困った。意味は分かるが自らが試すのなら娼館に行くしかないが、娼婦に開発中の商品を知られるのは良くない。
かと言ってソニアたちに協力を仰げない。
ジェルの開発をしたいから、俺とXXXをしてくれ!・・・
完全に事案だ。
ミランダとソニアは言えば喜んで協力するだろうが、彼女たちをそのように扱うことはもちろんない。
ここは素直に領主様に託すか?
ロイがうーんと唸っていると、コナリスとリックガントは苦笑いを浮かべながらも、必要なサンプルや小分け前のスライムをソニアに渡した。そして、出発する直前になり、予期せぬ来訪者より領主も同行することを知らされた。
何と領主自ら来ており、初めは不思議に思ったが、領主からの話を聞くと、彼もまたこの旅に同行することになっていたのだ。
「王都への道は危険が伴います。私が同行することで、少しは安全が保障されるでしょう。」
領主の護衛の騎士は落ち着いた声で言った。
「ロイ君、先日は妻を助けてくれてありがとう。私も王都に行く用事があるから、一緒に向かうのだよ・・・」
こうして予期せぬ同行者とともに数日間の旅に出ることになった。領主の伴走を受けて、王に献上するための貴重なサンプルを携え、王都へと向かう準備を整えた。この旅が、予想以上の出来事や発見をもたらすことになるのかもしれない。彼らの心は期待と不安で満たされながらも、新たな冒険への希望に胸を膨らませていた。彼らの物語は、まだまだ続いていくのであった。
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