第95話 朝チュンは

 朝、ぼんやりと目を開けたロイは、昨夜のことを思い出そうとしていた。


 酔った勢いで男性経験のないリラとソニアを乱暴して純潔を奪い、己の欲望に任せてその肌を蹂躙して求めたり、2人と勢いで肌を重ね終わった後、腕枕で2人のぬくもりを感じている。


 そんなことをしなかったか?と自問自答する。

 しかし、良かったというのか、残念というのか、そのようなことは起こっていなかった。


 2人との情事の余韻に淡い期待を抱いていたが、部屋の隅には昨晩着ていた服が無造作に投げられていて、ベッドに1人で寝ている。


 しかし、それ以外に変わった様子はない。リラやソニア画着ていた服が床に転がっていることもない。


 部屋には自分1人だけがいて、彼の隣には誰もいないことに安堵する。


【朝チュンを期待したり予想された方、ごめんなさい】


 ただ、頭の中で昨夜の記憶が断片的によみがえってくる。彼女たちとの楽しい会話、時折交わされた冗談や笑い声。それらは確かに心温まるものだったが、肌を触れ合うような親密な展開にはならなかったのだ。


 いや、多分ミランダ、エリナも自分が求めれば涙を流しながら応じてくる。待っているもあるが、もとに戻った婚約のこともあり、不誠実なことをすべきではないと思っていた。


 ロイはゆっくりとベッドから起き上がり、頭を抱える。

 少し動くと猛烈な頭痛とともに、体は二日酔いの不快感を訴えていた。


 昨夜、あれほどまでに楽しく飲んだのだから、今日のこの状態も当然の報いだろう。ロイは深くため息をついた。あれは果汁ではなく、果実酒だったのだと思い知らされた。


 それからの一週間、ロイはパーティーを率いて何事もなくスライム集めに励んだ。時折現れるスライム以外の魔物を狩る程度だ。


 その後昨夜のような酒宴はなく、ただ平穏無事に日々は過ぎていく。ロイにとって、スライム集めは単調な作業である一方で、どこか安心感をもたらすものでもあった。変わらぬ日々の中で、自分が何者であるか、そして何を求めているのかについて、改めて考える時間を持つことになった。


 そんなある日、帰還してから1週間程経過したころだろうか、ロイの平凡な日常は、1通の書状によって突如として変わることになる。


 王都から、城へ来て王に謁見するようにとの招請状だった。そこには


【ロイ・フォン・クラベル様へ、晶石の舞いを伴い王都へ登城し謁見するように】と記されていた。


 ロイ・ファン・クラベルではないのは誤記だろうか?準男爵家であるファンではなく、爵位持ちのフォンとなっていた。 


 この突然の招待に、ロイは驚きと同時に興奮を隠せなかった。

 なぜ自分が呼ばれたのか、その理由は分からない。しかし、これが自分の人生において新たな章を開く大きな転機になるかもしれないという予感に心を躍らせた。

 婚約復活のことか?

 

 ロイはその日のうちに出発の準備を始めた。彼にとって、スライム集めという日常からの脱却、そして未知の世界への旅立ちは、新たな冒険そのものだった。1か月ほどは狩りをしなくてもよいほどのスライムは集まっている。


 王都への道中、彼はこれから自分に何が待ち受けているのか、どんな運命の変転があるのかを想像しながら、期待に胸を膨らませていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る