第94話 慰労会

 帰還後、ロイはリラにオークのことを報告したが、その話を聞いて目を輝かせていた。


「オークを生け捕りにしたなんて、信じられない!それはすごい進展ね!」


 彼女は興奮して言ったが、そう言えばこれまでに生け捕りにしたのはゴブリンだけか?とどうだったかなぁとあまり気にしていなかったことに気がつく。


 ロイは微笑みながらうなずき、次にコナリスの研究室へ向かったが、ビッグスライムを持って現れると、コナリスは驚嘆の声を上げた。


「これは!?これは私たちの研究に革命をもたらすかもしれませんですうぅ!」彼女はビッグスライムを前にして目を丸くした。


 回復ポーションの素材にしたり、色々試したいことをマシンガントークで語られ、ベリーズにすまないと耳打ちされ黙って話に付き合い、やがて語り尽くして満足したコナリスにビッグスライムを託した。


 取り敢えずローションの試作品を少しもらい、他の実験や検証をしている実験場の状況を見たり、アドバイスをしたりした。


 その日の後半、ロイはリックガントと会い、ヴィーナスローションの販売戦略について話し合った。2人は市場分析、価格設定、そしてプロモーション活動について熱心に議論した。


「このローションが市場に出れば、私たちの商店は新たな高みに達するだろう。」


 リックガントは確信に満ちた声で言った。ロイは珍しく少し興奮しているのを見て、驚いていた。


「確かに、しかし私たちは品質を保ちながら生産を増やす必要があります。それに、市場をリードするための戦略も必要です」


 ロイは戦略的な考えを巡らせていた。 先日のサイラー商店のように妨害してくるところもある。

 本当は貴族に頼るのはロイ的には避けたいが、そうもいかない。現実に目を背けることは出来ないからだ。

 今回領主の娘の手のひらで踊らされていた形だが、色々聞きたいことがあるも、本人は既に王都に行ってしまって、おり少しもやもやしていた。


 彼らは夜になるまで話し合い、ヴィーナスローションの成功を確信しながら、次の日の計画を立てた。ロイとリックガントのパートナーシップは、彼らのビジネスを新たな地平へと導く強固なものであった。 


 そして・・・  


「カンパ~イ」


 昨日は戻ってきたばかりで、早々に宿に引き上げていた。


 しかし、今日は違う。

 リックガントが慰労会と銘打ち、近くの食堂に皆で繰り出していた。


 大いに食べて大いに飲んだ。

 リックガントはロイたちが、殆ど飲めないのを知らず、よりによって高い酒、高価な果実酒はかなり飲みやすく、それらを注文しており、ロイは酒と知らずに飲んでベロベロになってしまった。


 慰労会は賑やかな雰囲気の中で進んでいたが、酒が進むにつれて、話題も少しデリケートなものに移っていった。


「ロイ、君は今回のことでもうじき立派な貴族になる。そんな君が娼館に通うなどという話は聞きたくないね」


 リックガントは酔っ払いながらも、真剣な表情で言った。  


「好いてくれる誰かから、何ならうちのリラを妾にしなさい」


 ロイは一瞬言葉を失った。リックガントの提案には驚きつつ、彼が真剣に考えているのか、それとも酒のせいで口走っただけなのかが分からなかった。


「酔っていますね、リックガントさん。」 

 

 ロイは苦笑しながら言った。しかし、その話には踏み込むべきではないと感じ、話題を変えようとしたその時だった。


「何ならアタイなんかどうだい?エリナなんかロイが娼館に行ったって泣いてたぜ」  


 隣に座っていたミランダが冗談めかして言い出した。彼女の言葉に場が一瞬静まり返るが、すぐに笑い声が上がった。

 

「まあ、ロイさん、どうします? 私たちの中からお選びになりますか?」  


 エリナも酔っており、ロイは集中砲火を浴びる。


 ロイはこの状況の滑稽さに笑いながらも、彼女たちの優しさと温かさに心を打たれた。


「皆さん、本当にありがとうございます。しかし、私は皆さんを大切な友人として尊敬しています。そういう関係を超えることは考えられません。」


 リラもその場にいて、ロイの言葉に安堵の表情を浮かべた。


「ロイ、そう言ってくれると信じていたわ。私たちはみんな、あなたのことを大切に思っているから。父がごめんなさいね」


 その後も会話は続いたが、ロイはこの慰労会での会話を通じて、彼らとの絆がさらに深まったことを感じていた。不穏な提案やからかいも、結局は彼らの間の信頼と友情を確認する機会となったのだった。


 お開きになった頃、上機嫌なリックガントは千鳥足で奥さんと娘2人に引っ張られ自宅に帰り、ベリーズはコナリスと共にどこかに消えた。


 そしてロイはリラとソニアに肩を貸され、フラフラになりながら宿へ向かっていった。

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