第86話 魔石抜き取りの進化
ロイは馬車から投げ出された時に体を打ち付けたが、咄嗟に周りを確認するも眼の前に門があり、しかも町側にいるのを理解した。
『何とか町に入れたか!急いで門を閉めないと』
つぶやきつつ転げて血だらけなまま門に駆け寄り、ギョッとしている門番と共に門を閉めた。
見た目は擦過傷で酷いが、骨は折れていない。
一部の魔物が馬車に肉薄しており、馬車と共に町の中に入り込んでいた。
だが、冒険者や門を守る兵士たちがあっという間に倒し、ロイの背後に迫ったオーガを必死な形相の冒険者が滅多刺しにした。
「このやろう!死にやがれ!」
ロイは門が閉まったことを確認すると、周りの様子を見始めた。
取り敢えず町に入り込んだ魔物は全て倒されたことが分かり、ソニア、エリナ、ベリーズ、ミランダの無事な姿、と言ってもベリーズは頭から血を出しているが活動可能なことを確認し、ほっとした。
奥方様の馬車は町の奥へと進み、1台の馬車が付き従ったのみで、残りの馬車から兵士が降りてきており、門の防衛に加わろうとしている。
町の外では魔物が門を破ろうとしており、ロイはまず体を治さなければと、回復ポーションを取り出し始めた。
『この距離でも魔石を抜き取れたらな』
そう呟きながら、取り出した回復ポーションを一気に飲む。
ふうと一息つくと、先程馬車から投げ出された時の傷は癒え始め、右手からジャラジャラと魔石が零れ出たので驚いた。
これまで1メートルほどであれば、触れていなくとも魔石を抜き取れたのだが、少なくとも今いるところから門の外まで数メートルある。
試しに壁に手を触れながら「魔石抜き取り」と発したが、10秒ほどするとまたもや右手から大量の魔石がジャンジャカジャンジャカと現れた。
「うはっ!まじか!」
そう唸ったが、門を叩いていた魔物が沈黙したことが分かる。
特にロイの場合、自身が持つ魔石抜き取りの能力が、いつの間にか進化していたことに驚いていた。ロイはこの新たな能力を活かし、魔物たちを無力化していく戦術を取ることに決めた。
何が起こったか殆どの者は分からず、防壁の上に次々と兵士が向かい、バリスタや矢を放つ準備をし出した。
「防衛隊が来るまでここにいる者で食い止めなくばならない!ここを突破されれば我々に未来はない!命を賭してでも守るんだ!弓を持つものは上に来てくれ!・・・」
門番か、門の警護を担当する指揮官か分からないが防壁の上から叱咤激励するのが聞こえる。
「何だ?魔物が門の前で勝手に倒れたぞ!門に近付けさせるな!」
ロイはこれからどうするか少し考え、頷いた。
「ソニア、こっちに来てくれ。ベリーズとミランダは俺を守ってくれ。外にいる魔物の魔石を抜き取る」
ミランダが何かを言いかけたが、ロイの足元に転がる魔石を見て喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
呆れつつ、ニンマリしながら駆け寄る。
「ロイ、アタイに任せときな!死んでもロイの背中はアタイが守るぜ!」
ロイからは外の様子は分からないが、門に触れられる位置が魔物から一番近い。
再び門を叩く音が聞こえ、防壁の上からは怒鳴り声と矢が放たれたれると思われる風切音が聞こえ始めた。
「魔物が来たぞ!矢画足りない!早く矢を持って来い!」「魔法を使える奴を寄越せ!」
等と聞こえてくる。
再び魔石抜き取りを試みると、約10秒後成功したことが分かる。
邪魔になるので、魔石はエリナが駆け寄りソニアと共に収納に入れていく。
10秒ほどで約10メートル先の魔物から魔石を抜き取ることができるようになったロイの能力は、今回の戦いで大きな武器となる。
エリナやミランダ、ベリーズもそれぞれが持つ技能を駆使して戦うのではなく、ロイを守るのが仕事になった。
ロイの能力を知る彼らは、今の状況から生き延びるのはロイの活躍以外ないと分かっている。ミランダは背後を、ベリーズは大盾を頭上に構え、上を見張る。
ロイは門に向かい見えない門の先を見据えるかのようにひたすら魔石を抜き取っている。
定期的に魔物が倒れるので、防壁の上からはまた倒れました!など、混乱しているが、その声には希望が感じ取れた。
町の人々を守ることに尽力したロイたちの勇敢な行動は、町の人々の間で急速に伝わり、多くの人々が彼らに感謝の意を示した。
また、奥方様がメイドたちと共に非戦闘員を安全な場所へと誘導したことも、町の人々から高く評価された。ミランダ達を降ろした時に自らもその場に残り、馬車には副隊長と御者だけの馬車が領主の元へと伝令として向かっていた。
アルティスの領主の奥方の冷静な判断と行動は、多くの人々を危険から守ることに貢献した。
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