第76話 バーモントと予期せぬ来客
夕方、最後の客を見送るとロイたちはその場にへたり込んだ。
近くにある工場もフル回転で、そこで働く職人も嬉しい悲鳴を上げている。
前日店が燃やされたのは痛かったが、元々老朽化が目立ち、建て替えも検討していた。
「みんなお疲れ様。まさかあれほど押し寄せてくるとは思わなかったよ・・・」
明日に向けての話をしていると、ドアがノックされた。
はて?と首を傾げながらドアを開けると、そこにはバーモント商会の会長であるバーモント氏がおり、頭を下げてきた。
「こんにちは。バーモントです。先ずは同行者を紹介せねばなりません」
ロイはバーモント氏の背後から現れた人物を見て驚いた。
「ま、先ずは中にお入り下さい」
「うむ。中を見させてもらうよ」
背後にフルプレートアーマーを着て面を上げている騎士が2人、剣に手をかけながら付き従い、その男の一歩後ろに老執事がいる。この男もまた、腰に業物をぶら下げている。
「疲れているところ悪い。お茶と切り身を出して!」
リックガントがロイに誰なのか聞こうとしたが、その男は手で制した。
もちろんこの街で商売を営んでいればバーモントは知っている。
今の店もバーモント氏に斡旋された。
「切り身とやらを貰えるかな?」
ロイはソニアから二皿渡され各々バーモント氏と連れの男に差し出す。
執事が警戒するも、よいと手で制した。大き目の切り身で、ナイフで切り分けるよう柄を執事に差し出した。
「半分にお切り下さい。私でも貴方でも味見をどうぞ」
味見と言うが毒見だ。
執事は男と目配せし頷くと半分を自らの口に入れた。
「美味しゅうございます」
バーモント氏も口に入れたが、こちらも驚いていた。
それを見た男も口に入れる。
「ほう、妻が絶賛する訳だ。君はそうか、見たことがあるね。それでは私のことを知っている訳だ。彼以外は始めましてかな?私は領主の・・・・」
領主の挨拶にリックガントは呆然としていた。
領主は気さくな人でスライムの話を聞きたがった。
一通り説明とスライムを見て貰うと、素晴らしいと唸った。
「バーモント君、どうだろう?君の所でサポートし、この街の特産品として各街で販売してみては?」
「はっ!わたくしも噂を聞き及んでいましたが、物凄い人気と、私の妻もお肌が艶々だと自慢しておりました。閣下と同じことを考えていた所に閣下が来られましたので」
「うむ。悪い話ではないと思うのだが、なにか問題はあるかね?」
「ロイ君、君のほうが詳しいだろう?任せるよ」
リックガントはお手上げとロイに投げた。
ロイもこうなると断れる話ではないと、思案する。
「はい。先ず材料は私とこのソニアでないと確保できません。これは加護によるものなので、人を集めるのとは別問題です。しかし、スライム狩りを3日に一度パーティーですれば問題ありません。それよりも工場の生産能力に問題があります。私たちが確保した今食した切り身、このスライムを粉末化するのですが、現状瓶の数が不足気味なのと、この店で売る分の製造も寝る間を惜しんで作っていただいており、人の募集を掛けているところなのです。つまり工場を何とかしないと増産が厳しいのです」
「バーモント君、どう思う?君なら何とか出来るのだろう?」
「2つ問題があります。リックガント氏の意向次第ですが、増産するとして、他の街でどうやって売るのか?これは我が商会の取り扱い商品として卸してもらえれば何とかなります。次に増産ですが、かなりの雇用を見込めますが、初期資金がかなりかさみます。資金さえ大丈夫なら何とでもなりますし、材料はロイさんが何とか出来るようですので」
「うむ。資金は私が出そう。もちろんいずれ回収は出来ると確信しての投資だ。後はリックガント君とロイ君の意向次第だ。人の手を借りたくないとかあるだろうが、今聞いた話だと、そもそも材料をロイ君しか確保できないようなので、君たちに有利な条件となるし、この国に激震が走る事業だと思うがね。差し当たり没収したサイラー商店をバーモント商会に組み込み、名前を変えて使うのも一つの手ではないかね?」
リックガントは頷く。
「領主様、因みにサイラー商店の方はどうなるので?」
「うむ。リックガント商店を潰そうとしたにしては不自然なところはある。意図したかどうか関係なく我が娘と妻がいる時に襲撃し、下手をすれば死んでおったのだ。サイラー本人は鉱山にて終身刑、商店は取り潰しだ。王都にも店があるらしいからそれも没収だ。襲撃に関わった者は皆鉱山送りだな。しかし従業員はバーモント君に委ねる。解雇するも雇用するも自由だ」
ロイの中にもヴィーナスラヴェールを、いずれ国中に販売したいとの想いから願ったりかなったりだと判断し、共同事業に取り掛かることになった。
また、娘は明日王都に戻るらしいので、切り身用のスライムを2体贈呈し、保存方法を執事に伝えておいた。2体なのは、もう1体の方は領主様用で、妻ともども気に入ったようだからだ。食べ過ぎると腹を下すと念入りに伝えていた。
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