第77話 慰労会と言う名の会議

 怒涛の一週間が過ぎ、ようやく平常運転となりつつあった。

 サイラー商店が領主に没収されたが、そのまま火災の補填としてリックガントに譲渡された。

 そして、その店でリックガント魔法道具店を再開することが決まった。


 化粧品を扱うリックガント商店の方は、タニスを店長として明日から営業を行う。


 見た目が派手で、生物学上の性別が男なのを別にすれば、見た目も仕草も女の子しているし、奇抜な格好もアパレル系では【あり】なので、可愛らしいわと女性受けが良い。

 また、試用期間を兼ねたこの一週間の評価でもある。


 サイラー商店の元店員については面接の結果、雇用して化粧品部門の店員とし、事業を軌道に乗せる。


 そして、新店オープン一週間を記念し、焼け残ったスライムから身を切り取り出した。


 ドロッとしたクリーム状で、リラの鑑定では鑑定できなかった。

 つまり、まだ誰も効果を知らない状態を意味する。


 匂いは少し薬っぽい。

 食欲を大幅に減衰する匂いだ。

 ロイがスプーンにちょこっと取り分け、それを口に運ぶと直ぐにペット吐き出した。ゴホッゴホッと噎せ慌てて口を濯いだ。


「駄目だ。効果はわからないけど、とてもじゃないけど不味すぎて口にできない。体に取り入れて何か効果があるにしろ、何かと混ぜないと無理だ。それに匂いも口にするような物ではないな」


「では肌に塗ってみたり、傷口に塗り込んでは?はたまた髪につけてみるのはどうかね?」


 そんな話が出て、リックガントが名乗りを上げた。


「肌に塗るのは男でやろう。良い効果が出れば女性で試すので良いのでは?」


「その役目、私にもやらせてください!」


 元サイラー商店の店員のうち、年長の女性が名乗り出た。


「良いのですか?」


 ロイが確認した。


「長年の勘に過ぎませんが、サイラー商店で扱っていた商品と似た匂いがするのです。害はないと思います。でも、この子達はまだ未婚ですが、私はそうではありません。お肌の気になるところに塗れば良い結果が得られると思うのです」


「分かりました。先ずは服などで見えないところから試してください。次に傷はどうします?誰かをナイフで切りますか?試す人は結構辛いですよ」


「僕がやるよ」


 リックガントが訪ねるとロイは、自分がやると言うと即時に持っていたナイフでさっと腕を少し切った。


 リラやソニアがあっ!と声を上げるが、後の祭りだ。


 スライムの身を塗り込むも変化はない。

 それどころかロイが少し辛いようにしていたので、エリナが中止にした。急ぎ水を掛けて洗い流し、スライムの体液を飲み込んで傷を癒やした。


「傷には効果がないようだな。回復するにしても、時間が掛かり過ぎるようだから効果はないとみるしかないな」 


 その日は男衆と、年配の女性が焼け残ったスライムクリームを体に塗り込んでから寝ることに。



 そして・・・


「カンパ~イ」


 近くの店でプチ慰労会を行った。

 また、新たに雇った元サイラー商店の店員だった女性3名の歓迎会でもある。


 元々サイラーの強引な商売、高値での強気な化粧品の販売に異を唱えていて、逆らったとして給金も下げられ、嫌なら他に行けば?と苦汁をなめさせられていたそうだ。


 それでも他所より条件が良いのですがり付くように仕事をしていたのだとか。

 また、改装するにしろ、サイラー商店が営業していたそのままの全てを貰ったので、商品がままんま残っているのだという。


 そこでリックガント商店で販売することになった。

 効果がダブル商品は叩き売りにし、効果がダブらない商品は仕入値から適正価格、サイラー商店の半値程で扱うことになった。

 特に元サイラー商店の3人は、これまでの顧客の取り込みを兼ねて、救済合併した体をとることに感謝していた。


 慰労会や歓迎会ではあるが、新たなスタートに興奮を隠せず、打合せというか、食べながらの会議の席となっていた。


 リラいわく、父がこれ程目を輝かせているのを見たことがないのだという。


 ヴィーナスラヴェールの累計売上約金貨700枚。



後書き失礼します。

ストックが尽きかけてきました。

今後は1話/1日の投稿が基本となります。宜しくお願いします!

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