第13話 王国と帝国 皇太子視点
「なぜ我々がこんなところにまで来ないといけないんだ……」
「きゃあ‼︎ワタクシのドレスに泥が跳ねたわ‼︎」
「……まったく、王国の人間は黙って移動もできないのか?」
「ッ‼︎お前、不敬だぞ‼︎」
「そうですよ?誰かは知りませんけど、ミンニールは王太子で、次期国王なんですから」
呆れてものも言えない。
偽聖女のリコはともかく、ミンニールは王族だろ?しかも王太子。
隣国の次期トップの顔くらい覚えておけよ。あと、国の力関係も。
彼らは自分たちの立場をわかっているのだろうか。
いや、わかっていない阿呆だからこんな態度を取れるんだろうな。
彼らは今、私に許しを乞わなくてはいけない立場だ。
そうでなくても国力は帝国の方が上。
帝国の皇太子である私が、王国の王太子に不敬も何もあるものか。
ここまで数分、ほんの少し場所を移動するために歩いただけだが、馬鹿と同じ場所にいるのは疲れる。
早く帰って愛しい婚約者と可愛い弟に会いたい。
私の婚約者殿は、とても可愛い。
帝国の侯爵令嬢で、私の一個下。
儚げな雰囲気なのに芯が強い女性で、私の
婚約者が男装姿のクリスに、ほおを染めているところを見て、一瞬クリスを王国に送り返すことまで考えた。
まあ、私はクリスも大事だから、「従兄妹のクリスだよ」と紹介していたのを、
「クリスティーナというんだ。女の子だから、私やアウグストには分からない話もあるだろうし,仲良くしてくれると嬉しい」
と紹介し直すことで手を打った。
母上からは呆れられたが、仕方ない。
私ととてもよく似た顔の、五歳下の弟は、子供の頃から目に入れても痛くないほどに溺愛してきた自覚がある。
だって‼︎
腹黒いところも「兄上かっこいい‼︎」って言って受け入れてくれる弟なんて、そりゃあもう可愛いに決まってる。
爵位だけの能無し貴族どもが余計な事を吹き込んだせいで、笑顔を見られなくなった時はもうどうしてくれようかと思って、父上と二人で貴族家を潰す方法百選を考えたけど、クリスのおかげでまた笑うようになったから、三年ほど社交界に出られないだけにしといてあげた。
昔のような可愛らしい笑みではなくて、ニヤッとしたような笑みだけど、私からしたらそれも可愛いのでよしです。
なんなら、今の方が生意気な感じで好き。
そんな弟クンからは、「くれぐれも頼んだ」と言われているから、可愛い弟のために、お兄さん張り切っちゃおう♪
……脳内で婚約者殿と弟の素晴らしさを語っていたら、王国の連中との移動も、思っていたよりも苦痛じゃなかった。
ていうか、こいつら自分たちが冤罪で罪人にした人間の顔も覚えてないんだな。
三人とも、めちゃくちゃ微妙な顔してる。
騒がれなくて良かったけど、覚えられてないのは複雑って感じか。
帝国側の人間が座り終え、王国の人間もぶつぶつと文句を言いながら腰掛けたところで、私は切り替える。
さて、じゃあ始めますか。
「最初にお前たちに言っておくと、私は帝国の皇太子。今回皇帝である父上から全権を任されて来た。つまり、私の言葉は皇帝の言葉と心得よ。
また、帝国は精霊王様から王国への処分を任されている。私の言葉は、精霊王様の意思でもあるという事だな」
「「「「なっ⁉︎」」」」
ハア……。国のトップに立つもの同士の会談ではあり得ないことばかりだな。
黙ってくれるならこちらとしては都合がいいが。
「まず、帝国からそちらへの要求だが、
一、王国は帝国の属国になる事。
それにあたって、
二、王家の人間は王位継承権を破棄し、平民へと下る事。その際、帝国が指定した地域から出ずに生涯を送る事。
ああ、ミリアーネ殿だったか?クリスの妹君はこちらで預かる。
三、ミンニール殿とリコ殿は婚約していると聞いてる。愛し合っているなら素晴らしいじゃないか。結婚し,生涯共に過ごす事。
そして、最後に四つ目、私の後ろにいる、お前らが冤罪をかけた三人に、彼らの冤罪だったと認めること。
この四つだけだな。簡単だろう?」
この四つの条件を呑むだけで、王国の民全員が助かるんだから。
命を奪うわけでもない、とても優しい処遇だ。
「帝国は、王国を馬鹿にしているのか……⁉︎」
「そうよ‼︎ふざけないで‼︎ワタクシ達が、何故平民なんかにならないといけないの⁉︎」
なのに、なぜお前らはそんな風に怒ってるんだ?
「逆に聞きたい。次期皇帝である私のいとこであり、現皇帝である父上の姪。そして精霊の愛し子……お前ら風にいうと聖女か。聖女であるクリス、クリスティーナを殺しておいて、なんの処罰もないと思っていたのか?」
「クリスティーナが、皇帝の姪⁉︎」
「クリスティーナの母は皇帝の妹だ。当然だろう?
クリスティーナは王位継承権一位の王族なだけじゃなくて、帝位継承権三位の皇族でもある。お前如きが呼び捨てにしていい人間じゃないんだよ」
絶句したリコだったが、持ち直したらしい。
「あの、私、騙されてて……助けてください‼︎」
「なっ‼︎リコ⁉︎」
「嫌だよ。大切な従兄妹と、その従兄妹の大切なものを奪った人間を助けるほど、私は優しくない。それに、私は婚約者一筋なんだ」
ここに弟、アウグストがいなくてよかったなと思った。
どう見てもクリスに好意を持っていたアウグストなら、この女を斬り捨てていただろうから。
こいつらには、もっと苦しんでもらわないと困るんだよ。
私とアウグストのことをよく知らない人間は、私の方が優しいと思ってるみたいだけど、本当は、アウグストの方が何十倍も優しいんだよ。
そんな事を考える私に伸ばした手を振り払われたリコは、周りを見て助けてくれる人間がいない事に気づいたのだろう。
自分の横で間抜け顔を晒している男と一緒になるしかないと知って、絶望しているように見える。結局、王太子の立場にしか用がないという事なのだろう。
「そもそも、帝国はこうなるまでに三度も、王国の親族に対する非道な扱いに目を瞑ってきた。
一度目は、暴言、嫌がらせ、色々な方法で叔母様アンネローズ様の心を壊し、それでも足りずに殺した時。
二度目は、毒や刺客を使ってクリスも殺そうとした時。
三度目は、恥知らずにも、冷遇していたクリスを王国に返せと言ってきた時。
次はないと、確かにそう言ってたはずなのに、お前らはクリスに手を出した。これはその結果だ。本当は、魔物に碌な対策をしない王家に怒り狂ってる民たちの前で公開処刑しても良いんだが。そっちの方がいいか?」
お前らに選択肢など残っていない。
そういう意味を含ませた問いは、国王と王妃の心を折るのには十分だったみたいだ。
「わ、わかった……。要求を受け入れる」
頭を抱える国王と、泣き続ける王妃。
リコを問い詰める王太子に、呆然とした様子で座り込み、空虚な目をしているリコ。
話が始まる前とは随分と違う様子の四人を残して、会議は終わった。
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