第10話 王太子の迷想
忌々しいクリスティーナが死に、リコが召喚の儀をした日から三日が経った。
「いつまで聖女であるリコを閉じ込めておくつもりだ⁉︎」
「ですから、彼女は聖女ではなかったのです。何度説明したら分かるのですか?」
「そんな筈はないだろう⁉︎何かの間違いだ‼︎」
「では、殿下は精霊王様が間違っていると?」
「うっ、それは……」
世界を統べる精霊王は絶対。平民の子供でも知っている常識だった。
「ハア……。そういう事ですから、彼女が地下牢から出る事はありません。
彼女の事を考える暇があるなら、魔物への対処の方法を考えて頂けませんか?公務も、進んでいないではありませんか。それでは、失礼致します」
「……クソッ‼︎」
結局俺––ミンニールは、王太子である自分へ無礼な態度を取る文官に、何も言い返せないまま悪態をつくことしか出来なかった。
暫く何もする気が起きなかった俺は、椅子に座って、どうやったらリコを助け出せるかを考えていた。
「失礼致します‼︎王都の民が、暴動を起こしています‼︎」
俺が大事な考え事をしているというのに、伝令の騎士が飛び込んできて、訳のわからない事を言うせいで、思考が中断してしまった。
「はあ⁉︎どういう事だ⁉︎」
「失礼致します‼︎魔物を狩っている騎士達が限界です‼︎なんとかして下さい‼︎」
何を言っているんだ?
「……」
「失礼致します‼︎魔物による被害の一覧と、救援申請の書類です‼︎至急確認して下さい‼︎」
そんな事、俺の仕事じゃないだろう?
「……さい」
「殿下‼︎公務を‼︎」
「……るさい」
「「「「殿下‼︎」」」」
「うるさいうるさいうるさいうるさい‼︎出ていけよ‼︎
俺は王太子だぞ⁉︎王族に文句を言うような愚民どもは殺せよ‼︎騎士はそういうののためにいるんだろ⁉︎仕事しろよ‼︎
王国を、王族を守るために死ねるなら騎士も本望だろ⁉︎救援⁉︎そんな事は領を管理してる貴族達の役目だ‼︎それぞれでなんとかしろ‼︎」
言いたい事を言って、肩で息をする俺を、部屋にいた伝令の騎士や、文官達が信じられないものを見るような目で見てくる。
なんなんだよ⁉︎
王族である俺が、王太子、未来の王である俺が‼︎直接指示したんだから、さっさと動けよ‼︎
「本気ですか?殿下」
「なんだ⁉︎文句でもあるのか⁉︎」
「…………いえ、ありません」
「っ‼︎ですが、クリスティーナ殿下なんんっ⁉︎」
「おい、そこのお前、今なんて言った?」
俺は振り向いて、口を騎士に押さえられている文官に聞く。
「なんでも」
「お前には聞いてない」
代わりに答えようとする騎士を黙らせ、文官にもう一度聞く。
「クリスティーナ殿下なら‼︎そんな非情で適当な対応をなされなかったでしょうと申し上げようとしたのですよ‼︎」
騎士から逃れた文官の言葉に、俺は思わず声を荒げる。
「お前‼︎ふざけるなよ‼︎俺があの化け物よりも劣ると‼︎そう言いたいのか⁉︎
もういい‼︎‼︎出ていけ‼︎……いいから出て行け‼︎」
俺は与えられている執務室から全員を追い出し、立ち上がっていた椅子にドカリと座り込んだ。
「親にも、誰にも愛されない、愛されなかった
俺は一人になった執務室で呟く。
だって、そうだろう?
母上が言ってた。
『ミンニール、貴方が王太子になるんですよ。あの女の子どもに勝つんです』って。
父上が言ってた。
『お前がこの国の次の王だ』って。
リコが言ってた。
『あの人なんかより、ミンニールの方がずっとずっと、王様にふさわしいよ』って。
俺よりも一歳下とは思えない、腹違いの妹。
小さい頃、あいつは俺より賢くて、子供とは思えない物言いが、所作が、気品が、得体の知れない生き物と話しているようで、気味が悪かった。まあ、今は全ての面において俺が勝っているが。
あの頃は、同じ人間とは思えなくて、嫌いだった。遠ざけようと思った。
俺は両親から愛されてて、何をしても許されるのに、あいつは誰からも嫌われていて、出来る事も限られている。
俺の方が、あいつよりも上だ。
あいつは死んで、俺は次の王になる事が確実になった。
なのに何故、あいつの名前が出てくる?
「文官達をベッドにでも連れ込んで、味方にしたのか?」
だって、そうでも無いとあいつなんかを文官が味方するなんて事、あり得ないじゃないか。
ほとんどまともに顔を合わせて無いから知らないが、きっと俺とは違って、顔も良いわけじゃあるまい。
「ああ、でもあんな貧相な体じゃ無理か。じゃあ、金でも積んだのか?」
あいつ、アクセサリーやドレスを買っているところを見た事がないが。帝国の人間がたかが留学生にお金を出すわけもないから、いろんな人間にお金を積んでいたから、貧乏だったんだろう。
そう考えるとしっくりくるな。目的は俺や父上から忠実な部下を奪うことか?
ああ、王になれないからって、リコが言っていた犯罪だけならず、そんな事にまで手を出していたなんて。
やはり、あいつはどうしようもない。その事を見抜いたリコはすごいな。聖女に違いない。早く地下牢から出してやらないといけないな。
「そうだ。今から父上に、お願いしに行こう!」
ついでに、
俺はすぐに父上の執務室に向かう事にした。
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