第9話 王妃の計算違い

「どう言う事なの⁉︎」


ガシャンッ‼︎


「っ、きゃあ‼︎」


「全く使えないわね‼︎どうして買い物が出来ないのと聞いているのよ‼︎」


「もう国庫に余裕がないのですっ‼︎」


ああ、もうっ‼︎王妃であるワタクシの言う事を聞けない無能なんて必要ないわ‼︎


「あんたたちなんかクビよ‼︎今すぐ荷物をまとめて出ていきなさい‼︎」


「ッ⁉︎……かしこまりました」


失礼します。とだけ言って、花瓶を投げつけられた恐怖で震える侍女と共に、文官は出ていった。


もう、イライラする。なんで上手くいかないのかしら。


優秀で美しいワタクシの邪魔をする人間は、いなくなったはずなのに‼︎


「アンネローズとクリスティーナ……お前達は死んでもワタクシの邪魔をするのね」


聖女だというから目をかけていたあの女……リナだかリコだか、そんな名前の異世界人は昨日、精霊王様に無礼を働いて、その上聖女じゃなかったとかで囚われたらしいし……。


私の可愛い可愛いミンニールを誑かしたアバズレがどうなろうが知ったこっちゃ無いけど、あの女がちゃんとして無かったせいで私がドレスを買う時間がなくなったじゃない‼︎


あの女は好きじゃなかったけど、忌々しいクリスティーナを側近達諸共不幸にするために役に立った事だけは褒めてやってもいいわね。


あの女が出した案のおかげで、私の罪があの口煩い執事の物になったんだもの‼︎

あの執事はアンネローズの時から仕えている人間で、私のいう事を全然聞かないから、嫌いだったのよね。


それに、ミリアーヌ?だったかしら?ともかく、あの馬鹿な娘のおかげで私の手は汚れずにクリスティーナが死んだ。


可愛くもなければ、賢くも無い娘。王子ならともかく、王女なんて、ねえ?

産んですぐは殺そうかとも思ったけど、生かしておいてよかったわ。

やっぱりワタクシは天才ね‼︎





ワタクシはこのセレンスティア王国の、伯爵令嬢だった。

実家の爵位はそこまで高くなかったけど、王立学園で王太子だった陛下、ミゼリアンに見初められて恋仲になったわ。

このまま王太子妃になって、そのうち王妃になるんだって思ってた。


それを邪魔したのが、帝国の第一皇女だったアンネローズだ。


一目見て、負けたと思った。

癖のない、黒に近い藍色の髪。優しげな菫色の瞳。女の私も見惚れそうになるくらい美しかった。


負けたなんて、認められなかった。負けたなんて、認めたくなかった。だから、あの女に気付かれないようにミゼリアンと会って、関係を深めていった。彼が王太子から国王になっても、私は変わらずミゼリアンと会っていた。


いや、少し変わったわね。

ミゼリアンが国王になって一年経った頃、ワタクシは側妃になった。

だから隠れて会う必要がなくなった。


ミゼリアンに選ばれたのは、あの女じゃなくてワタクシだ‼︎

子供だって、ワタクシが産んだのは王子であの女が産んだのは王女‼︎

しかも、私が産んだのが一年も早かった‼︎


あの女が帝国の皇女で、一応王妃になっていた。だから、義務としてミゼリアンはあの女との間にも子をもうけたけど、私との間の子、ミンニールを立太子させると言った。

当たり前だわ。

あの女にしか似てない、藍色の髪と菫色の瞳の王女よりも、ワタクシの薄桃色の髪とミゼリアンの薄茶の瞳を持った王子の方が、ずっとずっと王太子に相応しいもの‼︎


ワタクシはあの女に勝ったの‼︎

なのに、王妃の子の方が継承権が高いって、言われた。

あの女そっくりの、クリスティーナと名付けられた娘。

そいつの方が王位継承権は上だと。

忌々しいったらありゃしない。母子二人、揃ってワタクシの邪魔をするのね。


だから、陛下と話して、二人を殺そうと決めた。

アンネローズがいなくなって、私が王妃になればミンニールも、お腹の子も、クリスティーナよりも王位継承権が上になると思ったから。




私は王妃になった。ミンニールも王太子になった。


アンネローズは死んだ。クリスティーナも死んだ。


ワタクシはあの母子おやこに勝ったのよ‼︎

あの二人よりも、高級なものを身に付けて、愛されて、幸せになるの。


その、はずだったのに。


部屋を見回す。

さっき、侍女に投げつけて割れた花瓶はそのまま。

宝石とドレスは、宰相や文官に止められて新しいものを買えていない。


ワタクシ付きの侍女は、どんどん減っていた。

仕事が追いつかないのか、ワタクシの言う事を叶えてくれない事が増えた。

執事に侍女を増やすように言ったが、クリスティーナが死んでから、辞める人間が多くて人手が足りないから無理だと言われた。


部屋を見回す。

視界の端に、高く積まれた書類の山が見える。

文官達が置いていったけど、今までサインをするだけで良かったものとは違って、ちゃんと見て、判断してからサインするよう言われた。

そんなこと言われても、内容がわからない。

難しくて、手を付けていないから、どんどん溜まっていった。


宰相に確認したら今までクリスティーナが大半をやってたからだって前に言われたけど、嘘でしょ?そんなわけないじゃ無い。


だってあの子は私に似て優秀なミンニールよりも劣っているのよ?あの女に似てね‼︎

優秀なワタクシ達があんな無能な子に頼ってたわけないわ。


なんなのよ‼︎今まで、こんな事なかったのに。

あの忌々しいクリスティーナがいなくなってから、何かがおかしい。


そうだ。みんなが二言目にはクリスティーナの名前を出す。


クリスティーナがいたら、クリスティーナなら、クリスティーナは……。


「みんなしてクリスティーナクリスティーナって、なんなのよ‼︎」


クリスティーナは、いなくなったのに。排除したのに。

アンネローズはいなくなったのだから、クリスティーナがいなくなったら、全てうまくいくはずなのに…。


むしゃくしゃする。イライラする。

可愛いミンニールとお茶をすれば、少しはマシになるかしら?









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