第6話 国王の焦り

「なぜ、なぜ、なぜ、なぜ……なぜ‼︎上手くいかないのだ‼︎」


あの忌々しい娘は死んだではないか‼︎


先王––父の命令で王妃にした、王国の北に位置する大国ヴェラルド帝国の王妹アンネローズ・ヴェラルドと余の間に生まれた一人娘、クリスティーナ・セレンスティア。


幸いアンネローズは、賊に見せかけた騎士を使って亡き者とできたが、クリスティーナは殺し損ねた。

帝国への留学を認めざるを得ず、なかなか上手くいかなかったが、やっと死んだ。


これで全てうまく行くようになると思ったのに‼︎


「陛下‼︎魔物の群れが王都に現れました‼︎」


「陛下‼︎帝国から宣戦布告されました‼︎

皇太子が率いた軍が王国に向かっているようです‼︎」


「陛下‼︎聖女さ、リコが地下牢で騒いでいます‼︎

聖女を閉じ込めるとはどう言うことかと‼︎」


「陛下‼︎王太子殿下と王妃殿下の公務が終わりません‼︎」


「陛下‼︎公国から第一王女の死について問い合わせが来ています‼︎

先程の精霊王様達の話について、納得のいく説明を求めると‼︎」


なぜ問題ばかり起こるのだ‼︎


『これが聖女?笑わせてくれるな』


召喚の儀での、精霊王様達の言葉が蘇る。


『我らが愛し子はクリスティーナだけ』


––精霊の愛し子。聖女と呼ばれる存在。


『彼女亡き今、この国を護っている結界は解く』


––聖女であるクリスティーナあの娘がいたから、この国には結界が張られていた?


『そんなことも知らないのか?クリスがこの国を外敵から守るために我ら七柱と精霊王の力を借りて結界を張ってるんだ』


『だからこの国は今まで安全だったのですよ』


『結界を解いたら、まず間違いなく魔物の餌食だな』


––だから今まで安全だった?そして今魔物が襲っている?


『我らが愛し子に対して貴様らがした事を、我らは決して赦さない』


『ですが、愛し子たっての願いです。慈悲をあげましょう』


『本来我ら直々に下すはずの罰を、全て帝国に委ねます』


––帝国からの宣戦布告はこれのせいか?


『帝国の言葉は我らの言葉と思え』


『これは王国全土と帝国、そして周辺各国にも同時に告げてあります』


『無かったことにはならぬ』


『では、以上だ』


「あなた‼︎なぜこんなにも書類が多いの⁉︎」


「父上‼︎こんなものは私の仕事ではありません‼︎それに、いつになったらリコと話せるようになるのです⁉︎」


「王妃殿下、王太子殿下‼︎何度も言ってるではありませんか‼︎今まではあなた方の公務の大半をクリスティーナ様……第一王女殿下が担っていらっしゃったのですよ‼︎彼女亡き今、それぞれでやってもらわなければ困ります‼︎」


「何を言っているのです宰相‼︎そんなわけないでしょう⁉︎とにかく、なんとかなさい‼︎わかりましたね?私はこれから夜会用のドレスを買うのです」


「そうだぞ宰相‼︎あの無能に我らの公務など出来るわけがないだろう‼︎」


「ですからそれは」


「もういい‼︎お前達文官達でなんとかしろ‼︎いいな⁉︎」


余は、息子と王妃、そして宰相の会話を聞いて考える。


自身の執務室の机の上に積み重なった決済待ちの書類の山。


もしかして、余は何か間違えたのではないか?


……違う。そんなはずはない。余の判断は正しかった。


「父上。どうか正しいご判断を」


ああああああああ‼︎黙れ黙れ黙れ‼︎亡霊が‼︎お前クリスティーナは死んだんだ‼︎


「余の判断は‼︎正しかった‼︎そして今も‼︎余は正しい‼︎」


湧き上がる疑念を押し潰すように、近くにあった置き物を執務室の扉に向かって投げつけた。


「大丈夫。余は……正しいのだ。何も……、そう何も間違っていない」


いつの間にか誰もいなくなっていた執務室で一人、確かめるように口に出した言葉は誰にも届かず、消えていった。





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