第4話 召喚の儀 精霊王目線

「精霊王様‼︎私が、私が真の聖女です‼︎あなた様はクリスティーナに騙されているのです‼︎彼女はとてつもない悪女なのですから‼︎私も殺されかけました。もう、怖くて怖くて……精霊王様‼︎目を覚まして下さい‼︎」


何を、言っているのだ。この女は。


王国が聖女召喚の陣だと思ってるのは、ただただ世界と世界の間に穴を開けるだけのものだ。この子はそれに巻き込まれただけ。


この子は被害者だから、本来なら僕らも少しは味方になってやるはずだった。


でも……。


今この子……こいつはなんて言った?


僕らの愛し子が?


悪女だと?


ふざけるな。


ああ、不愉快極まりない。


嘘で彼女を死に至らしめるだけでは飽き足らず、死後もまだ、彼女を侮辱するのか。


僕ら大精霊や精霊王は、なんとなくこんな事考えてるなという程度なら心が読める。

こいつが考えてるのはどうやってクリスを陥れて、精霊王ぼくに気に入られるかだけ。

心は真っ黒だ。


そんな奴が、クリスを語るな‼︎


皆が同じ気持ちだったのだろう。僕は、思わずというように怒鳴りかけた大精霊たちを制した。


僕は今、いつもの飄々とした笑みを浮かべられているだろうか。

怒りによって歪みそうな顔を、無理矢理笑った顔にする。

喜びから一気に、絶望へと突き落とすために。


僕は心底、怒っていたから。かつてないほどに。


『お前、クリスが、何だって?』


その声はどこまでも凪いでいた。

許容量を超えた怒りによって、全てが無と化していた。


聖女を名乗るこの女、名前はリコとかいったか。

リコは僕の言葉の理解に時間がかかったのだろう。少し呆然ぼうぜんとした後、


「え」


と小さく呟いた。


何もわかっていなさそうな声に、さらなる怒りが湧いてくる。

怒りに任せてさらに言いつのろうとした時、


(おい精霊王)


念話が聞こえてきた。あの子の声だ。

でも、何故だ?あの子は念話が出来ないはずなのに。


(ルーチェに手伝ってもらって念話をしてるが、魔力がたん。言いたいことだけ言って切るぞ?いいか、勝手に動くな。怒ってるのはお前だけじゃないんだ。お前だけで終わらそうとするな。それじゃあな)


とても精霊王相手とは思えない話し方に、毒気を抜かれる。


ああ、そうだ、そうだった。こんな所で終わらせてはいけない。


それに、僕にはやらなきゃいけない事もある。

役割を終わらせて、早く取りかからなければ。


あとはあの子達に任せよう。


でも、まあ、少しサービスするくらいはいいよね。あの子達が動きやすいように。


『もういい。僕達がわざわざ招かれたよばれてやったのは、伝える為だ』


僕の意図を汲み取り、大精霊達が言葉を続ける。


『我らが愛し子に対して貴様らがした事を、我らは決して赦さない』


『ですが、愛し子たっての願いです。慈悲をあげましょう』


『本来我ら直々に下すはずの罰を、全て帝国に委ねます』


『帝国の言葉は我らの言葉と思え』


『これは王国全土と帝国、そして周辺各国にも同時に告げてあります』


『無かったことにはならぬ』


『では、以上だ』


最後に僕が別れを告げ、唖然あぜんとしている王国の国王、王太子、そしてリコを置いて、僕達は王国の召喚の間から消えた。


『せいぜい足掻いてよ、王国。あの子が逃すとは思えないけど』



だから、僕の声は、彼らには届かなかっただろう。







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