第3話 召喚の儀 聖女視点

「クリスティーナ様、死んだの?」


「ああ、やっとあの無能で、忌々しい女が消えた。あれが妹などおぞましい」


「よかった、これであなたは自由だし、私も儀式を受けられるわ」


「もうすぐだ。楽しみだな、リコ。その衣装も似合ってるぞ」


「ふふっ、ありがとう」


私は隣に座るセレンスティア王国の王太子、ミンニール・セレンスティアの腕を取りながら微笑む。


私が聖女召喚の儀とやらでこの世界に招かれたよばれたのが一年前。

来て直ぐにここが私の大好きなゲーム【愛し子と王国】の世界だとわかった。

自分がヒロインって事も。とっても嬉しかったわ。

だって、ゲームのヒロインが自分と同姓同名で、ずっと憧れてたんだもの。


「聖女様、王太子殿下、こちらへ。準備が整いました」


「ああ、今行く」


「わかったわ」


悪役令嬢のクリスティーナが、何故か帝国に留学していて現れなかったけど、些細な事だった。


クリスティーナは元々悪の王女と呼ばれて嫌われていたから。ここはゲームと違ったけど、私に都合が良かったからどうでも良かった。


王妃様も協力してくれて、クリスティーナとその側近達の断罪は簡単に終わった。


クリスティーナの侍女には、聖女である私を虐めた罪を。


騎士には帝国に武器を横流しした罪を。


執事には王妃様の横領の罪を被せ、クリスティーナには私の殺害教唆、横領の主犯、違法な奴隷の所持などの罪を被ってもらった。


ミンニールも国王様も、貴族の人も平民の人もみーんなそれを信じてくれた。

挙句にそれを王妃様から知らされたクリスティーナの妹チャンが、それを信じてクリスティーナを殺したっていうんだから、ほんっと面白い事この上ないわ。

よっぽど普段の行いが悪かったのね、まあ、悪の王女と呼ばれるくらいだから当たり前だけど。


「聖女様、陣の中で祈りを捧げて下さい。そうすれば、精霊様が来て下さるはずですから」


「ええ、わかってるわ」


ヒロインが王太子妃となるために必要な、精霊召喚の儀。

精霊達に、真の聖女と認めてもらうための儀式だ。

ゲームでは光の大精霊のルーチェと、風の大精霊のヴィントが来た。


でも…私の狙いは隠しキャラの精霊王、ユミトだ。


だから私は考えるのをやめて、心から願った。お願い、ユミト来て‼︎


「リコ、すごいな……」


「さすが聖女様……まさか、大精霊七柱のうち六柱を招くよぶとは」


「まさか……彼は精霊王では…?」


ミンニールと、騎士の声で私が目を開けると、そこには光の大精霊以外の大精霊と精霊王が降りていた。


「は、やった…!精霊王様、大精霊様、私を聖女と認めて下さるのですね!精霊王様が加護をくださるのですか?」


私が期待に目を輝かせて精霊王ユミトを見つめていると、精霊達が話し出した。


『これが聖女?笑わせてくれるな』


え?


『我らが愛し子はクリスティーナだけ』


『彼女亡き今、この国を護っている結界は解く』


ま、ってよ。何、なのよ。何でクリスティーナが愛し子––つまり聖女なんて言われてるのよ。


「結界って、どういう事なのですか‼︎」


国王様が叫ぶ。


『そんなことも知らないのか?クリスがこの国を外敵から守るために我ら七柱と精霊王の力を借りて結界を張ってるんだ』


『だからこの国は今まで安全だったのですよ』


『結界を解いたら、まず間違いなく魔物の餌食だな』


「そん、な」


「精霊王様‼︎私が、私が真の聖女です‼︎あなた様はクリスティーナに騙されているのです‼︎彼女はとてつもない悪女なのですから‼︎私も殺されかけました。もう、怖くて怖くて……精霊王様‼︎目を覚まして下さい‼︎」


崩れ落ちる国王様を一瞥するだけで、来てから何の反応もしない精霊王様に向かって私は叫ぶ。


クリスティーナが聖女なんてありえないのだ。

だって、私はヒロインで、クリスティーナは悪役令嬢だ。


だから、精霊王様は、きっと、彼女に騙されているのだ。彼は優しいから。

きっと、きっと……


私の訴えが効いたのか、精霊王様が初めて反応した。周りの大精霊様を制して、直々に声をかけてくれる様だ。


やっと、やっと、私は精霊王様と一緒になれるのだ。

ああ、彼をクリスティーナの呪縛から救えて良かった。

彼の口から紡がれるのは、私に対するお礼の言葉と告白だろう。

こんなに可愛いヒロインの私が勇気を出して彼を救うためにクリスティーナの罪を告発したのだから、きっと、彼と私はこれで、結ばれる。


『お前、クリスが、何だって?』


そうなったら、ユミトとミンニールの二人と楽しくこちらの世界、で、過ごす……え?今、なんて


安堵と期待でいっぱいになっている私が耳にしたのは、精霊王様からのお礼や告白ではなく、怒りに満ちた声だった。



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