第2話 精霊王の独白

『わかった、あとはに任せてよ。それじゃ、君はしばらく、ゆっくりお休み』


僕の言葉を聞いた直後、眠りについたクリスティーナの髪を、労りの気持ちを込めて、ゆっくりと撫でる。

夜を溶かしたような、綺麗な藍色の髪は、サラサラと指の間を滑り落ちていった。


『君は……優しいなあ』


彼女が聞いてないことを確認して、漏れてしまった言葉は震えていた。

平凡ながら暖かい家庭に生まれた来栖を、こちらの勝手な都合で、愛なんて存在しない場所に送り込んでしまった。

それなのに、恨み言も何も言わずに、クリスティーナとして生き、この世界を、この世界で生きる人々のことを、憂いてくれた。


ごめんね。嘘をついたんだ。違うんだよ。

確かに君の大事な人たちのことも確認してたけど、遅くなったのは、凛としている君の手が、震えている事に気づいたからなんだ。


『……王よ、私がクリスティーナを預かりましょう。すぐに動かれたほうがよろしいかと。他の大精霊はすでに動いております』


肩上で切り揃えた金髪を揺らし、心配そうに言う光の大精霊の言葉を受け入れるのに、随分と時間がかかった。

でも、確かに大精霊の中では一番、クリスティーナの側に居た彼女が適任だろう。


『……ああ、そうだね。そうしよう』


何度、君が震えているところを見ただろう。

何度、君が泣いているところを見ただろう。

それでもなお、君は前を向き、多くの人を救ってくれた。


『せめて、君の努力に、誠意に、僕達が応えよう』


救われたはずの人間達が応えないのなら、僕達精霊が応えよう。

何度でも、何度でも君に伝えよう。ありがとうと。


まずは、君から託された伝言を、君が大事にして、君を大事にした人間に伝えにいかなければ。


それが終われば、復讐の時間だ。

優しい君は望まないだろうけど、これは、の総意だ。

君が心の中で“彼”と呼ぶあの子と僕は仲良くないけど、今回ばかりは意見が一致してるんだ。

僕らの大切な大切な君を、愛し子を、傷つけた愚かな人間達に裁きを。


『世界を統べる精霊王の怒りを買った事。後悔すればいい』


たとえ後悔しようと、赦しはしないが。


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