第4節 魔女が住まう街

4ー1

――――第4節 魔女が住まう街――――



AM 3:45 南1条通り


『魔女』と化した私と、枢機卿との戦いが始まる。枢機卿が光の剣を放ち続けるが、私は、それを意図の容易くあしらう。

 私は、指を鳴らすと無数の火の玉を放出する。だが、枢機卿はそれらを障壁を展開して防ぐ。


「相変わらず、とんでもない魔力ね。あんなの相手にやりあえるなんて、あんたん所の枢機卿はどんだけ信仰とやらを集めたのよ」


「それは私が知りたいことです。それに、あれは今のアルトナさんでしょうか?

 さっきの魔力とは比べ物にならないくらい強い魔力を感じます」


「姉さんは、普段は使いたがらないんです。使うとしたら、星に影響を与えかねない巨悪と対峙するくらい。

 どんなに強い咎人が相手だろうと、姉さんは自力で対処しようとする。姉さんが『魔女化』を使うときは、こう言う相手を完膚なきまでに倒すくらいです」


 セシリア達は、上空を見上げながら会話をする。今の彼女達は、ただ私と枢機卿の戦いを見守るしか出来ないのだ。



 ――――――――――――――――――――


『魔女化』とは、【虹の魔女の血】を持つ魔術師のみが扱うことが出来る術式だ。

 膨大な魔力と、一定の条件が揃わないと、使うことはできない。その為、この力は容易く扱える者ではない。

 言わば、星に甚大な影響を及ぼす巨悪を殲滅するためにある、『抑止力』のようなものだ。

 だが、全員が同じわけではない。『魔女化』を持つ魔術師には、それぞれの使命がある。それに該当する巨悪が顕現した際、初めて『魔女化』が使えるのだ。

 まぁ、中には常に『魔女』になってる奴もいるが。

 特に、私は別枠になる。奴の思念を持つ私は、奴との『誓約』を満たすことで『魔女化』が扱えるのだから。


 ――――――――――――――――――――


 かくして、私と枢機卿は、激しい空中戦を繰り広げる。枢機卿は手数で攻めるが、私はそれをまた防ぎ切る。


「脆い。その程度しか出せんとは、落ちぶれたものよな」


『これほどのものだとは、私とあろうものが、少々油断をしていたようだ』


「ほう? まだ余裕があるようよね。少し、愉しめそうだ」


『魔女』と化した私は、手首を魔力で斬りつける。すると、血が飛び散りると、瞬時に刃に変貌する。枢機卿は瞬時に障壁を展開するが、血の剣は障壁に突き刺さる。

 仮面越しで見えないが、枢機卿は驚いた様子を見せていたようだ。


『まさか、障壁を貫通する威力だとは』


「良いぞ。貴様、気に入ったぞ」


 私は左手の指を鳴らす。すると、枢機卿の頭上に熱線が放出される。だが、枢機卿は障壁を展開してそれも防ぐ。


「前言撤回だ。貴様、何か細工をしてるな」


『何?』


「従来なら、貴様はここで己が魔力が枯渇してもおかしくない。その身、何か?」


 私の言葉に、枢機卿は仮面を外す。すると、仮面の奥から出てきたのは、人とは言えない異形のものだった。

 それを地上で見ていたセシリア達は、驚きを隠せなかったようだ。


「嘘でしょう……?」


「まさか……。枢機卿が、咎人になっていたなんて……」


 仮面より現れたそれは、何とも形容しがた物だった。これが、行きすぎた布教の末路なのか。はたまた、行きすぎた欲の末路なのか。


『ご覧のように、私の身はもはや成熟した咎人になったのですよ。アレだけの信者を殺害してれば、そうなると感じていたのですがね。

 だが、不思議と、克服したのです。我が我欲が、それを上回った様ですから』


「愚かな。人が人の魂を何とも思わぬとは、片腹痛い。ならば、ここで死をくれてやろう」


『魔女』の私は、ダーインスレイヴを片手に持ち、炎の剣を形成する。そして、それを指揮棒のように枢機卿に向けて放つ。

 枢機卿は、それを避ける、頭上にまで迫るが、私は、炎の剣を枢機卿の方向に放つ。だが、枢機卿はそれを予測したのか光の剣で迎撃する。


『流石だ。ここまで動きを読むとは。だが、それがいつまで効くのか、見ものでしょうな』


 枢機卿は天高くロンギヌスをあげ、私の周囲に魔方陣を展開する。


『神罰『アポカリプス』!』


「聖教会でも、高位に着くもののみが扱えるとされる、上級術式! アレを受けると、今のアルトナさんでも、一溜りもない!!」


 濃縮された光が、私に向けて放たれる。だが、こちらも対処なしとは言えない。『魔女』となった私は業火の熱線を放つ。


「滅せよ」っと言う一言で、光の光線を打ち返した。


「嘘……。アレを打ち返すなんて……」


 それを見ていたマリアは、あまりにもの光景に、ドン引きを隠せないでいた。

 だが、枢機卿の気配を感じられない。すると、私のすぐ背後までに、枢機卿が迫っていた。そして、その凶刃は、私の胴体を貫く。


『これで、終わりです』


 枢機卿のその言葉に、私は倒れてしまった。


『これで、『魔女』は打ち滅ぼしました。あとは、あなた方を抹殺するのみです』


 枢機卿は、セシリア達の方向に、ロンギヌスを向ける。セシリア達は死を覚悟した。

 その時だった。誰かの拍手の音が聞こえ、枢機卿は振り向く。


「見事だ。わたしに傷を負わせたことは褒めてやろう。だが、感心するには少々、早かった様だな」


『何が言いたい? 貴方は今、私に貫かれた。それだけがどうだと?』


「まだ気づかぬか。確かに、その槍はわたしを突き刺した。このように。だが、なぜわたし? なぜだと思う?」


『それがどうしたと?』


「まだわからぬか。お前がのかを」


『何!?』


 枢機卿は、私のビジョンが解けるのを見る。なんと、彼が指したのは、自身の側近だったのだ。


「ふっははは。まさか、思ってもいなかっただろう。お前が刺したのは、自分の側近だったとはな」


『貴様!!』


「『グリモワル真書 第21節 因果転換』。わたしに対するあらゆる因果の結果を転移させる術式だ。確かに、わたしはお前の魔具に刺された。その結果は確定していた。

 だが、その結果を転換させてもらった。あの時、お前がわたしにあの術式を放つ前にな。そして、お前はこれをわたしと認識したで先の術式を使い、そして刺した。

 皮肉なものよな。わたしを仕留めたと思い込んでたものが、側近を殺していたとはな」


『己!!』っと枢機卿は光の剣を放つ。しかし、それを私は指を鳴らして防ぐ。


「興醒めだ」っと小杖タクトを携える。


「『穿て グングニル』」


小杖タクトが形を変え、槍のような杖になる。その後ろには、6振りの刃が浮いていた。


『その魔具、見たことない魔具だ』


「『魔杖槍まじょうそう グングニル』。お前如きに使うには少々勿体無いが、まぁ良いだろう。ここで終わらせてくれよう」


『魔女』となった私は、グングニルに腰を掛け、そのまま足を組む。そして、悪人のような笑みを浮かべる。


「では、始めるとしよう。貴様のその捻じ曲がった信仰ごと、灰に帰してやろう」


『なるほど。今まではこと調べということですか』


 私と枢機卿との第二ラウンドが始まる。すると、魔力を感知、後ろを振り向く。


「お久しぶりにございます。偉大なる我が主人よ」


「『仮面の魔女ジャンヌ』か。久しいのう。いつぞやの新月以来か」


「はい。貴方様とこうしてお会いできること、恐縮至極にございます」


「そこまでは良い。だが、今はわたしと奴の殺し合い。お前は、下の者の守備に回れ」


「はい。貴方様の命令とあらば」


 枢機卿は、すかさず私に攻撃をする。だが、『仮面の魔女ジャンヌ』はそれを意図も容易く跳ね返す。


「武を弁えなさい。我が主人の前で、無粋な事は許されないわ」


「まぁ良い。それよりも、下のノミどもを駆逐させよ」


仮面の魔女ジャンヌ』は、瞬時に地上にワープする。そして、改めて私と枢機卿の2人となる。


『なるほど、同胞ですか』


「あれはわたしに忠実なしもべでな。わたしの下に、寄り添おうとするものだ」


 私は、グングニルの腰を掛けたまま、枢機卿を威圧する。こうして、この抗争の最後の戦いが幕を開けたのだった。

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