3ー5

AM 3:00 南3条通り


 驚愕の光景を目の当たりにし、驚きを隠せないまま、枢機卿との戦闘に入る。

 だが、私は枢機卿が展開した炎の檻に匿われ、身動きが取れないでいる。なので、現状戦える戦力は、セシリアとラスティア、明日香のみになる。

 私も、傍観してる訳にもいがないので、この炎の檻の解除を行う。


『無駄です。その檻は、神の秘術により展開したもの。貴方であっても解除をできないでしょう』


「神の秘術? どう言うことよ」


『我ら『聖教会』は、信仰によって神より魔術を使用を許されている。しかし、この女のように、強い信仰もなく魔術を行使できるのは異端とされているのです。

 ですが、神への信仰心が強い、それだけの理由で組織の中核を任されたのです』


「へぇ、それは、よかったわね!!」


 セシリアは、ニョルニルを展開し、枢機卿の頭部に向けて足蹴りを決める。しかし、その攻撃は、障壁によって阻まれる。


「逃げて!!」っとマリアの声と共にセリシアは反応する。すると、無数の光の剣が降り注ぐ。


「これは!?」


「光の剣。さっきあれを刺したやつだ」


 セシリア達は、枢機卿の持つ魔具を見て驚く。


「その槍、只者じゃないね! あんたクラスのものが扱えるとは到底思えないけど!?」


『ほう? これを見つけるとは、褒めて差し上げましょう。

『神槍 ロンギヌス』。我ら聖教会が保有する3本の槍『三神器』の一角にあたる信仰を司る神器。貴方方魔術院からした魔具にあたる代物でしょう。

 では、手始めにその力を見せてあげましょう』


 枢機卿は、天高くロンギヌスを掲げる。すると、また光の剣が降り注がれてる。

 みんなは避けようとするが、明日香はただ1人逃げずに立ち尽くす。


「『投影術式 英霊武具召喚 緑『狩猟神の月弓ルナーボウ・アルテミス』』!!」


 明日香は弓を天高く上げ、矢を放つ。すると、1本の矢が無数に分裂し、枢機卿の放つ光の剣を迎撃する。


『ほう? 我が秘術を打ち返すとは、見込みがあるようだ』


「この威力。あんた、とんでもないやり方で信仰を集めたみたいだね! 神器と言うなら、バックに多くの信徒がいてもおかしくないはずだ」


『そこも見抜くとは、これは生かす訳には行きませんね』


 枢機卿は、ロンギヌスを地面に刺す。


『えぇそうです。この無尽蔵の信仰は、多くの信徒による物。彼らは必死になって信仰をしてくれました。これを、神から与えられたとしてね。

 その正体が、毒物が入ったただのだとも知らずに。おかけで、私は多くの信仰を得られた。単純なものです。弱り切った人間は、救済という甘い蜜をよって集り、やがて救われると神に願い、信仰をする。

 理由なんて、正直どうでもいい。救済なんてものはただの妄想と知らず、神という幻想を祭り上げるのだから。誰もが救われると信じるのが馬鹿馬鹿しいのですよ。そこまでの状況になったのも、結局は自業自得なのだから』


「ふざけんじゃないわよ!! 貴様は、自身の力を得るために、自分とこの信者を殺したってわけ!!」


 セシリアの怒号が響く。それを聞いた私の、怒りが溢れていく。


『そうだと言っているでしょう。だが、これは違った。私の計画にいち早く気づき、そして、計画をリークし、『魔女』の助力を求めた。

 愚かなものだ。私に太刀打ち出来ないと分かりきり、外部の、それも敵対勢力に助けを求めるとは』


「本当なのか?」


「はい。あの方やり方は聖教会にとって、あってはならない行為。ですが、立場上、それが出来なかった。だからあなたの事務所に赴いたのです」


 枢機卿の言葉に、周囲がドン引きをする。それでも、セシリア達は立ち向かう。


「あんたの話、聞いてると虫唾が走るわ。ならここで、あんたに消えてもらうしかなさそうね」


 セシリアと明日香は魔具を展開する。そして、両サイドから枢機卿を攻撃する。だが、枢機卿は障壁で防ぎ切り、2人を振り払う。

 ラスティアも氷花を展開し、枢機卿に接近する。しかし、それを予測していたのか、枢機卿は炎の壁を形成し、ラスティアの接近を阻む。

 私は、それを見てるだけと思うと、益々怒りが溢れていく。


『悔しかろう。敵の策にまんまと嵌り、自身は何も出来んとは』


「何が言いたい」


『その目を向けるな。お前に詰めの甘さが要因だというのに』


 奴が出た。私の怒りと共に、私の中に奴が。どうやら、枢機卿の策に、まんまとハマった私を嘲笑ってるようだ。


「嘲笑えばいい。お前には関係ない」


『そうとはいかんな。わたしとて、このまま大人しく居座る気はない。それは、お前も一緒だろう』


「だから、何が言いたい?」


『良いことを教えてやろう。この檻を使え。この炎を、わたしを喚び起こすのは充分の魔力を持つ。己が策が利用される絶望を与えてやれ。

 お前には、それができよう』


 奴は、私に助言を言う。だが、奴が言うことは正しい。何か手を打たないとセシリア達が死ぬのは時間の問題だ。

 そう考えてると、下からマリアの助けを求める声が聞こえた。


「お願いです。枢機卿を、彼を倒してください! 出なければ、彼によって死んでしまった信徒達が、彼を信じて逝ってしまったもの達が報われない!!」


「いいのか? 君らにとって、私に依頼するのは、プライドが保てなくなるだろう」


「そんなものは、ここにはない!! どうか、お願いします!! 貴方にしか出来ないんです!!」


 マリアの言葉に、目を瞑る。この状況を、終わらせるには、『アレ』を使うしかない。


「おい。聞こえてるか?」


『ほう? ようやく決心したのだな』


「あぁ。あの外道を完膚なきまでに殺す。だが、今の私にはそれすら出来ない」


『それで? 何がしたい?』


「そのためには、『力』が必要だ。奴の持つ信仰心とやらを超える力が」


『そうか。ではどうする?』


 私は、奴に目を向ける。そして、奴の向かってこう言うのだ。


「このくだらない戦いを終わらせる。だから、力をよこせ!」


 その言葉に、奴は黒い瘴気を祓い、素顔を私に見せる。その顔は、まさに悪人のような笑みだった。


『いいだろう! 我が力、増分に扱うがいい!』


 私は、目を開ける。そして、マリアに視線を向ける。


「わかった。なら、これだけは約束してほしい」


「はい。なんなりと」


「アレを殺したら、君らは撤退する。これが条件だ、異論はないだろ?」


「――――分かりました。その条件、乗りましょう!!」


 マリアと約束を交わし、右腕は掲げる。すると、炎の檻が、私は包み込み始める。


「アル!? 一体何を!?」


『愚かな。勝ち目が無いと自ら自死する気ですか』


 炎の檻が、私を包み込む。そして、視界の全てが炎で覆い尽くされる。だが、これは私が狙っていたことだ。それをただ、待っていた。

 やがて、檻が火柱になる。その時、私は詠唱を開始した。

 

「『星よ 虹よ 我が声に応えよ 我こそは【虹の魔女】の正当なる転生者である 故に 我は星に仇なす者を滅殺せし代行者也』」


 火柱だったものが、私を覆いつくす。セシリア達は、その詠唱に気づく。


「まさか、やる気なの?」


 私は詠唱を続ける。それと同時に、魔術院と聖教会の兵達が、次々と倒れていく。


「『今此処に 我が血肉を糧とし 【虹の魔女】よ 現世に現界せよ

『四重魔術 特級降霊術式 『魔女転生』』』」


 私を包み込む炎が、私の体を変異させていく。衣服を焼け、その炎は新たな衣服へと変貌する。そして、徐々に炎は私を一体となり、消滅する。


「やはり来ちゃったか……」


「えぇ。もう私たちが出る幕はないですね」


『これは、なんという魔力だ』


 炎の火柱が消えると、そこには変貌した私がいた。もとい『魔女』と化した私だ。


「ひれ伏せ、下郎。貴様にこうべをあげる価値があろうか」


『貴方にそれを言う価値があるか、試させてもらいましょう』


 枢機卿は、私に向けて光の剣を向ける。だが、『魔女』になった私は、指を鳴らすと、光の剣は全て消える。


「実に汚らわしい光よ。なら、わたし直々とその光ごと祓ってやろう」


 マリアは、魔具を杖代わりにし、セシリアの元に行く。そして、マリアに向けて、セシリアはこう言うにだった。


「あれは、一体?」


「――――魔術師の中でも、伝説と呼ばれた【虹の魔女】の『血』を持つ者でしかなれないとされる術式よ。人呼んで『魔女化』。

 その中でも、彼女は、最強と評されてるわ」

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