3ー4

AM 1:00 南3条通り


 マリアを回復させ、彼女との交戦を始める。不公平を嫌う私からの情けなのか、彼女の体は回復していく。

 マリアとしては、想定していない事だろう。セシリアでさへ、かなりの強敵なのにそれを上回る魔術師が、相手になるのだから。


「まさか、あなたとこうして戦うことになるなんて、思いもよりませんでした。今回は、あなたとは戦うことはないと思っていたので」


「私としては、君を倒せばそれでいいと思ってるよ。君が司令官なら、この戦いは魔術院私達の勝ちになる。

 単純なことだ。敵の大将の首を獲ればそれで終わる。それは今も昔も変わらない事だ」


「そうですね。こちらとしても、そこの魔術師を殺せばいい。ですが、私としてはあなたも倒せばそれが果たされる。

 そいつとの再戦は、あなたを倒してからにしましょう」


 マリアは話の間際に、私に向けて魔術を放つ。だが、グラムによって、その軌道は外れてしまったようだ。


「透明の斬撃か。こいつは少々厄介だな。何も対処していなきゃ、初見殺しには持ってこいだな」


「これを一発で避けたなんて。しかし、これはどうです!」


 マリアは再び、魔術を放つ。放たれた二つの透明な剣圧は、私に向けて軌道を曲げる。だが、それはグラムとティルフィングによって防がれてしまった。


「だが、術者のパターンが分かれば、容易いものだ。私を殺す事に執着して、構築がバラバラだ」


「ここまで構築して、当たらないなんて……。しかも、私の術式を把握しているとは」


「生憎、こういうのは得意な方でね。魔術を見れば、その術者の術式を読めるんだ」


 マリアは、私の言葉に動揺と怒りを隠しきれないでいる。


「そんなの、はったりです! こんな事出来るなんて、聞いたことがない!」


「そうかもね。私は、普段は全力で殺り合おうなんて考えてない。それは至ってシンプルだ。君らのようなじゃ、私と殺し合った所で死んでしまうからだ。

 だが、人の道を踏み外した下郎なら、話は別だ。相手がそういうのなら、私は遠慮なく全力で殺してやるつもりだ」


 マリアは、私の底知れぬ魔力を目の当たりにし、ますます重圧を感じている。そして今度は、私の方から攻撃を行う。

 白の炎と黒の炎を左右それぞれの腕に纏わせ、グラムとティルフィングの形状を変化させる。


「この一撃は、君が私に向けた魔術のお返しだ。存分と受け取るがいい」


 グラムから魔力が放出され、私はそれをマリアに向ける。そして、炎を纏った風の塊を放出する。すると、マリアはそれを防ぐが、その突風は戦場を突き抜けるように放たれた。


「この威力! この魔力量は、一体!!」


「まだこれだけではない」


 今度は、ティルフィングを向け、数発の火球をマリアに向けて放出する。


「これが、最強と謳われた魔術師の実力……。なぜ、ここまでの力があるのに、戦おうとしない!?」


「戦う気がないだけさ。無価値な事に精を出すほど、私は暇ではない」


 マリアは魔具を振るい、私に向けて魔術を放つ。しかし、私はそれを軽々と避ける。


「私の魔術は、視認できないはず……。それをなぜ避けれるんです!?」


「見えるんじゃない。んだ。そのトリックを教えてあげよう」


 私は、自身の目をマリアに向ける。その眼孔を見て、マリアは驚愕する。


「その目は、一体……?」


「この目はね、魔力の流れが視えるんだ。魔力を視認化することで、相手の魔術を把握し、対処する。言わば迎撃向けの術式だ。

 まぁ、普段はダーインスレイヴで封じているがな。これは常時発動の物でね。見たくないもんを見てしまうからな」


「そんなのハッタリだ! 聖典にも、教えにもそんなものはない!」


「教えが全てじゃない。この世は規則で成り立つほど成り立ってないさ。それに、これにはまだ一つ言ってないことがある」


 私の言葉に、マリア達は再び私の方に向く。


「この目で見た術式は、全て暗記する事ができる。そして、それを詠唱をせずに唱えられる。

 だが、それはあくまで魔術書に記載されてるものに限るだけで、他者の創作魔術は覚えられないがね」


「相変わらずチートよ」っとつぶやくセシリア。普段はこの力を使う事なく敵を倒すことを念頭に置いている。だが、咎人など、厄介な相手にはこれを使わず追えない場合は、やむなく使う。

 使わなかったていうのは、理由にならないからだ。


「聞いたことあります。魔術を詠唱することなく、魔術を行使することができる魔術師がいると。

 そして、その魔術師は、自身に仇なす者を例外なく排除すると。そのせいもあり、元老院の私兵部隊はたった1人の魔術師により全滅され、さらには元老院そのものを屈服させたと。

 その銀色の髪に、炎の魔術を卓越して扱えるからこう呼ばれている。

 まさか、貴方のことだったのですね。『燃え盛る銀嶺』の異名を持つ魔術師とは」


「久しいな。その異名を呼ぶ奴に会うのは。大抵のやつは、みんな『魔女』と呼ぶからさ」


 マリアは、私に向けて魔具を向ける。彼女の性格上、自分よりも強い相手に対して、血が騒ぐようだ。

 私も、彼女の意思に従う。戦いの場以前に、それに敬意を払うのが礼儀というものだ。

 再び、透明の斬撃を放つマリア。しかし、私はそれを避け、ダーインスレイヴを展開し炎の斬撃を放つ。

 マリアは咄嗟に避けるが、炎の斬撃は、縦に一直線に斬られる。


「ここまでとは……。貴方という魔術師が、この街にいたのが我らの大誤算だとは」


「そんな余裕があるなら、自分の頭上を見たらどう?」


 マリアは、私の声に気付き、空を見上げる。すると、血で形成された数振りの剣が、彼女を取り囲むように向けられる。

 私は、小杖タクトを振り、上空の血の剣をマリアに向けて放つ。

 マリアは、それを魔術で避けるが、私はグラムとティルフィングを構え、彼女の元へ接近する。


「あの魔術を放った後に、接近するなんて、これでは、こちらが攻撃すらできない!」


「言ったはずだ。敬意を払うって」


 マリアは、防戦一方のまま、私の攻撃を避ける。流石に、このままじゃまずいと思ったのか、少し距離を取り、魔術を唱える。


「これで!!」っと自身の魔力を集中させて、透明の斬撃を複数放つ。


 私は、その場に留まり、手を合わせる。


「『グリモワル真書 第58節 『事象干渉』』」


 私が手を合わせると、マリアの魔術を消滅し始める。多めの魔力を消費したために、マリアはその場に座り込む。


「そんな……。確実に倒せる魔術だったのに……」


「悪いね。殺し合いに、卑怯もクソもないんだ。この魔術は、視界に入ってる事象に干渉することができる。

 君の魔術は、私が干渉したことで、その魔術はにされた。まぁ、簡単にいうと、君らが得意とする『白の色素エレメント』を瞬発的に放つことで、あらゆる魔術を無効化する術式だ」


「まさに、ミイラ取りがミイラになるっと言うことですか。貴方にはしてやられましたね」


「どうかな? 君らが、私は知り尽くしてたら、変わっていたのかもね」


 私は、マリアに近づき手を差し伸べる。だが、強力な魔力を感じ、その場を離れる。


『よくやりましたね。マリア。『魔女』を足止めしたことは評価しましょう』


「貴方は、まさか、枢機卿閣下!」


「まさか、聖教会の最高幹部が、直々に!?」


 私たちは、仮面を被った人物に向けて、身構えをする。すると、炎の檻が私は囲い出す。

 

『あなたにはそこで大人しくしてもらいましょう。では、あとは私が引き受けましょう』


「とんでもございません! ここは私が――――」


 マリアは、枢機卿を下がる様に言う。だが、光の剣らしきものが、マリアの足に突き刺さった。


「ああぁ! なぜ、このようなことを!!」


『あなたは用済みです。そこで大人しく見ていなさい』


 枢機卿は、マリアを非情に振る舞い、マリアを置き去りにする。そして、セシリア達の元にゆっくりと歩き出す。

 かくして、私は、セシリア達の救援に向かうことすら許されず、ただ、炎の檻の中で見てるしかなかったのだった。

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