第3節 大通抗争

3ー1

――――――第3節 大通抗争――――――


AM 0:30 南3条通り


 魔術院と聖教会との抗争が幕を開ける。開戦してまだ1時間も経過をしていないにも関わらず、すでに双方に多くの死傷者が出ていた。

 魔術同士のぶつかり合い、それによって起きた爆風により、道路にクレーターがいくつも出来上がる。

 しかし、戦局は刻一刻と激しくなる一方だ。


「まだそんなに立っていないはずなのに、もうこんなに死んでるなんて」


「それに、向こうは死を恐れてない。これじゃテンプル騎士団と変わらない」


 聖教会の軍勢は、死を恐れずに特攻をする。それはまるで、自らを犠牲にしてまで、神に武功を献上しようとしてるようなものだ。

 魔術院陣営は、それを止めるので精一杯になり、耐えきれずに死に絶えてしまう。その為、戦力が着々と減らされてるのだ。


「救いを求めし迷い子たちよ!! 異端なる魔術師共を皆殺しにせよ!!」


 教団の号令により、首輪をつけた異形な集団が、押し寄せて来る。呻き声と共に、その集団は魔術師陣営を襲いかかる。


「これは、『愚者グール』!? なぜこんなに!?」


「こんなに寄せ集めていたなんて……。こんなのは救済なんてもんじゃないわ!!」


『愚者』の群れが、魔術師達を襲いかかる。熟練の魔術師だとしても、流石のこの数では、どうしようもなくなる。

 しかし、それはただ4人の魔術師を除いた話である。


「みんな。用意の方はできてる?」


「こちらは大丈夫です。美生ちゃん、アリスちゃん。準備は?」


「当然よ! こんなの、私1人で余裕よ!!」


「美生ちゃんってば、そんなに余裕ぶって。まぁ、ラスティアさんもいるから、まだ余裕かも」


 4人は、『愚者グール』の群れに向かう。その道中には、逃げ出してる魔術師達が多くいた。


「この量なら、これかな? ウィズ!! あれをお願い!!」


『わかった!! 今用意するね!!』


 ウィズは、亜空間から魔具を召喚する。明日香はそれを受け取り、『愚者グール』の群れへと斬りかかる。


「『投影術式 英霊武具召喚 橙『冷艶鋸れいえんきょ』』!!』」


 明日香は、青龍偃月刀を『愚者グール』の群れへ向けて斬りかかる。広範囲の『愚者グール』の胴体を断ち切り、衝撃波により、『愚者グール』を吹き飛ばす。

 背後の『愚者グール』に対し、魔具を銃に持ち替え迎撃をする。すると、ピンポイントに『愚者グール』を次々と急所に風穴を開けていった。


「次は誰?」っと血が滴る刀身を向ける。後方で見ていた教徒達は、戦わずして去っていった。


 一方で美生とアリスはというと、教徒達によって周りを囲まれていた。


「あっちもあっちで大変そうね。まぁ、こんなゴミ共より骨がありそうなのが羨ましいわ」


「でも、チンタラしてるとこっちがやばいかもね」


「別に。こっちが早く潰せばいい話よ!!」


 美生は、朱く染まった槍を敵に向ける。アリスもまた、大盾を敵に向ける。


「この『ゲイボルグ』の餌食になりたいのは、誰かしら?」


「それが嫌なら、変わりに私の魔具『イージスの盾』で遊んであげる」


 2人の構えに、周囲の教徒達は恐れ出して後退りをし始める。


「あの2人、知ってるか!?」「あぁ!! 執行者の中でも危険とされてる2人だよな!!」


「恐るな!! 我らは君の御心に従い、愚かな魔術師に天罰を与えに来たのだ!! 何も、たかが女2人、恐ることは――――――――――」


 信仰心の強い教徒が、士気を上げるべく奮い立たせるが、その最中に美生の槍が頭に突き刺さる。槍が突き刺さった顔は、もはや人とは言えない形をしていた。

 それを見た周りの教徒達は、恐怖で逃げ始める。


「うるさいわね。その減らず口を広げてあげただけでしょうよ」


「まぁ、殺し合いを仕掛けたのはそっちだし、それ相応の覚悟はできてるよね?」


 アリスは、魔具を展開し周囲の人間を車にくっつける。金属の磁力によって、離れたくても離れることはできないようだ。

 聞こえてくるは、教徒達の阿鼻叫喚。そして、磁力によって持ち上がった重機が、教徒達の間の前に現れる。


「それじゃ、死んでいってね」


 アリスは、重機の磁力を-波から+波に切り替える。すると、車の-波に吸い込まれるように、重機がくっつき出す。

 そして、大勢の教徒達が重機と車に挟まれるように次々と圧殺されていった。

 かろうじて生き延びた教徒達は、後ろを向いて逃げ始める。しかし、その背後には白い髪の死神が現れる。


「どこへ行くのかしら?」


 その言葉に、教徒達は恐怖を超え絶望する。美生は、地面に古代文字のような何かを展開し、目に止まらぬ速さで教徒達に襲いかかる。


「なんだ。思ってたよりも雑魚ばかりね」


 教徒達は、命乞いをするが、美生はお構いなしに1人ずつ心臓の位置に槍を突き刺す。


「戦場に、神なんていないわよ。あるのは、己の命だけ。神頼みするほどだったら、仕掛けた自分らを呪いなさい」


「容赦ないね。『クランの猛犬クー・フーリン』様は」


「どうせ自業自得よ。これだから嫌いなのよこういうのは。死ぬのが嫌なら、やらなきゃよかったのよ」


 美生は、ゲイボルグを肩に担ぐ。アリスは盾を展開しながら、ラスティアの方を向く。


「それと、あんまりその名クー・フーリンで呼ばないでよね。それはあくまで昔の名前だから」


「はいはい。さてっと、あっちはどうかな?」


 2人は、周りを見渡す。周囲の戦況は、なんだかんだで魔術院側が優勢であった。


 そして、その頃ラスティアは、思わぬ相手と遭遇してしまっていた。どうやら、相手は教徒達の中でも上位に君する人物らしい。

 しかし、その体はもはや人間とは言えないものであった。


「その体、まさか『咎人』!? なぜその様になるまで、人を殺したんですか?」


「殺した? 違うな!! 私たちは救済をしたのだ!! 迷える子羊に、神の救いの手を差し伸べただけなのだ!!」


「人を殺しておいて救済なんて。そんなのただの自己都合なだけです!! あなた方を許しません!!」


 ラスティアは、氷花を携え、斬りかかる。咎人もまた、ラスティアに向かって攻撃をする。


「その程度か!? 『魔女』がいなければ、たいしたことではない!!」


「果たして、その余裕がいつまで持つか」


 咎人の長い腕が、ラスティアに襲いかかる。しかし、ラスティアはそれを避ける。


「どうしましたか? お口が達者な割には、動きが鈍いですね」


「おのれ!! 何かハッタリを!!」


 咎人は、再びラスティアに襲いかかるが、さっきよりも動きが鈍くなる。


「なぜだ!! なぜこんなに動きが!! いや、違う!! 動きが鈍いんじゃない!! のか!?」


「ようやく気づきました? あなたに怒号を交わしてる間に、この周囲を冷気で支配しました。次第に鈍くなってるのは、あなたの体温が冷やされてるからです」


「小癪な真似を!!」


「それと、あなたと対峙してみて感じました。あなたのような相手は、これを使わずとして勝てるってね」


 その言葉に、咎人は激昂する。再度、ラスティアに襲いかかるが、体温が限界まで下がった為か、倒れ込む。


「『三重魔術 領域支配術式 冰界領域【アイシクルゾーン】』。私の体温を極低温に変換させることで、周囲を極低音の冷気で包み込む。

 この領域では、如何に強い熱であってもすぐに温度が下がり、やがて体が動けなくなるほどになる。

 それが、今のあなたです。どうです? 体が凍りつく感覚は?」


「あ、あががががが。がががががが」


「もう、言葉すら喋れなくなりましたか。ですが、このまま氷漬けにするのは、少々甘やかしてるだけ。あなたには、それ相応の罰を与えます。えぇ、そうです。姉さんならそうします」


 ラスティアは、咎人の頭上に氷塊を展開する。そして、術式を唱える。


「『星よ 我が声に従えよ 我は星を穢せしものを凍てつかせしもの也

  今ここに 人の道外せしものに永久なる凍結を与えん』」


 頭上の氷塊を見上げ、咎人は絶望する。冷気により、動かなくなった体を引き摺りながら、咎人は逃げる。

 しかし、それは無駄な抵抗であった。


「『グリモワル真書 第27節 魔砲放出【氷河】』」


 隕石のような氷塊が、咎人に襲いかかる。その結果、咎人の体は砕け散り、同時にその周囲を凍て付かせた。

 その氷河は、セシリアとマリアが戦ってる戦場と、その他の戦場を二分にさせた。

 すると、ラスティアが魔力を使い切ったのかその場に倒れ込む。


「大丈夫かい?」


「明日香さん……。ごめんなさい。少し無茶をしました」


「いいよ。それに、あいつの入れ知恵とはいえ、ラスティアがそれを使うと、一気に魔力がなくなるんだから、気をつけてね」


 明日香は、ラスティアに肩を担ぎ、移動する。さっきの一撃によって、美生とアリスが駆けつける。

 駆けつけた直後、強い魔力を感じ、感じた方向に振り向く。

 氷塊の奥には、赤く燃え盛る巨体な馬に跨ったアルトナが、セシリアとマリアの攻撃を防いでいたのだった。

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