2ー2
PM 4:00 魔術院日本支部 地下牢
リリィの手引きによって、幽閉されてから数日が経過していた。以前目隠しをされ、視界は真っ暗のままだ。
この数日は、私はただこの状態を維持する形で、何も進展もない。だが、こく一刻と、抗争が近づいてるのは明白だ。
それに、番人が私に拷問をしようとしないのは、誰かの入れ知恵だろう。恐らくは、リリィが言いふらしたのか、皆命が惜しいので、やろうとしないだけだろう。
「少しだけ、意識を飛ばすとしよう」
私は目を閉ざし、意識を飛ばし始める。気がつく頃には、私の魂は肉体から離れていた。
「『グリモアル真書 第6節 『
さて、少しだけ、鍛錬をしようか」
私は、魔力を霊体に集中させる。私の霊体に、『
その中には、死んでいった魂や無念が、含まれている。私は、それらを霊体に取り込んでいく。それらは全て、私の魔力として還元され、私がそれらを消費することで、彼らは邪念から解放されて行くのだ。
『ほう? 自らの肉体を剥離し、鍛錬に勤しむとは』
「…………なんだ、お前か」
奴が、私の霊体の前に現れる。何かを伝えるように、語りかける。
『せっかくだ。貴様に、一つ助言を言うとしよう』
「助言?」
『よいか? 信仰とは、即ち救いを求めるべく行う人の性だ。人とは、不都合が生じた時、神に
それを人は信仰と呼ぶ。だが、それを利用するものもいる。信仰とは名ばかりに、己が欲を満たすための道具として利用するものもいよう。
それが、人の
人とは弱いものよ。それが罠だと知らず、信仰の言葉の前では、全てが善と思い込む。その結果が、今貴様が集めた魂だ。過ぎた事とはいえ、所詮は自業自得。己が招いた結末よ』
「彼らを供養するには、どうすればいい?」
『当然、大元を根絶やしにすればよい。それは、貴様の得意分野だろう』
奴の言葉に、一つの疑問が生まれる。信仰とは何か? 他人を惑わすものか、あるいは言葉だけの愚行か?
それを正すためには、大元を潰せばいいのか? あるいは、跡形もなく根絶やしにすればいいのか?
『よいか? 必ずとも、全ての宗教がそうではない。中には、良い信仰と言えるものがある。
それは、入信を許容せず、仲間内で進行を深めあう。
人はそう捉えないだろう。それが、長い歴史が生んだ末路だどしてもだ。
人とは愚かなものよ。自らの過ちを学ばず、また同じことを繰り返す。それが例え、戦争だろうとな』
「それを正すのが、私の役目。私がお前と結んだ契約」
『如何にも。貴様は、我が器でしかない。即ち貴様は――――――』
「『
奴の言葉と同時に、私は自分が何者なのかを再確認する。同時に自分の使命も確認する。
本来、ロンドンの事故で死ぬ命だったが、奴と契約を結んだことで、『転生者』として、今に至る。
『本物のグリモアル真書』を集めてるのはそのためだ。それらを全て集めることで、奴を、『虹の魔女』を知れる事ができるのだから。
『
『わかれば良い。それと、これは忠告だ』
「今度は何?」
『この戦いでは、
そう言い残し、奴は消えていった。私は、ふと奴が言ったことを思い出す。
『――――――――この先、大きな戦が起きるだろう』
その意味が、ようやく理解した。これは、個人の戦いではなく、聖教会、それもその上にいる巨悪との戦いだと言うことだ。
その為には、ここから抜け出さないといけない。リリィの作戦では、両陣営に甚大な被害を出したまま、巨悪の漁夫の利で終わったしまう。
しかし、リリィとの密約を破棄する必要がある。そう考えてると、魔力を感じたので、私は霊体を元の肉体に戻した。
「『
「まだ解放されていなかったのね。『I位』め。まだこのような真似を」
「どれぐらい経った?」
「4日目よ。両陣営共、いつ起こしてもいい状態ね」
「そう。それと、『グリモアル真書』は?」
「調べたところ、『本物』よ。字も、『あの方』の物だわ。後は、あなたがそれよ読み解くだけよ」
「なるほど。少し、預かってもらいたい。いい?」
「えぇ。あれが持ってるのはレプリカと差し替えたわ。でも、あなたがここにいては、気が付かれるのは時間の問題だわ」
「そうだね。事が起きたら、すぐ抜け出そう」
「わかったわ。それまで、準備を進めておくわ」
そう言い残し、『
それがない事を祈り、私は、再び肉体から霊体を剥離させるのだった。
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