第2節 幽閉される魔女、開戦前夜

2ー1

―第2節 幽閉される魔女、開戦前夜―


PM 12:20 札幌市厚別区某所


 黒のキャラバンに乗せられ、とある所へと向かっている。

 しかし、私は今は目隠しをされている為、どこへ向かっているかもわからない状態だ。幸い、目隠し越しではあるが、周囲の人物の魔力を視認できているため、私の側にはセシリアがいる事がわかる。

 私の事務所からあそこまでは、車で1時間もかからないはずだが、どうやら渋滞に巻き込まれたらしい。

 ラスティアが言うには、この道路は結構混むそうだ。その為、渋滞もそんなに珍しい事ではないようだ。

 しばらくして、ようやく目的地に着いたようだ。セシリアは、私を引っ張りながら車を降りる。


「着いたわよ。魔術院日本支部よ」


 外の空気を感じ、目の前の方角に顔を向ける。そしてまた、セシリアに導かれる形で足を進める。


「遅くなりました。要人を連れて参りました」


 その言葉に、誰かが振り向くのを感じた。私と対等に感じる魔力を感じたことでそれが誰なのかがすぐにわかった。


「お疲れ。そこに座らしていいよ」


 セシリアは、私をソファーらしきものに座らせた。


「どういうことか、聞かせてもらおうか。リリィ」


「つれないな〜。久しぶりの再会なのに、その態度は酷くない?」


「こんなことされて、平然といられる? 大体、こんなことしなくてもいいだろうに」


「それは無理な相談だよ。君が『特級イレギュラー』である以上は、特例なしじゃこうする他にないんだもの」


「リリィ。キサラギさんをおちょくるんじゃないわよ」


 声からして美羽が呆れながらリリィに突っ込む。


「まぁとにかく、では、本題に入ろうか」 


 そう言い、リリィは話を始めた。


「君も知ってるように、ここ最近、世界中で起きた連続集団変死の事件だけど、こちらでも難航していてね。

 詳しくは、セシリアから聞いてるだろうから、詳細は省略させてもらうね。

 僕の観点から、犯人は聖教会で間違いないだろう。それも、上層部の連中の誰かだ。

 君が接触した人物が知らないのは、その為だろう」


「やはり、見張られたか。確かに、そんなことを言ってた。連中にとっては、それが知られたら、混乱するでしょうよ」


「2ヶ月前に、執行者達にアフガンに行かせたのもその為さ。けど、収穫はあったよ」


 リリィは、他の人物にそれを用意させる。


「その気配、君かい? 今はイロハというべきかな?」


「お久しぶりです! アルトナさん。こんな形でお会いする事になるとは思いませんでしたけど。

 それより、これが議長が言ってたものです」


 そういい、書物を私の前に置く。


「これは?」


「君が追い求めてる魔術書、『グリモワル真書』だよ。本物かどうかは定かではないけど、間違いなく

『グリモワル真書』だ。これを鑑定できるのは、君だけ。もちろん、ただというわけには行かないよ。

 君には、条件を受けた上でそれをあげよう」


「条件?」


「そう。君にはこの抗争の間、幽閉させてもらう。抗争が終わった暁には、それをあげよう。

 本来は、魔術院の秘匿管理物だけど、僕の公認でそれを君に譲渡しよう」


 リリィの言葉に、私は少し考え込む。しばらく考えた上で、私はリリィにある条件をつける。


「いいだろう。その代わり、一つ条件がある」


「何だい?」


「この抗争に、ラスティアを参加させないことが条件だ。それを破れば、この取引もなしだ」


「キサラギさん……。本当にいいのですか?」


「ラスティアが死なれるよりも本望さ。その為なら、幽閉なんて大した事ではないよ」


 私の提示した条件に、リリィは考える。


「いいよ。その代わり、こっちがピンチなら、ティアちゃんには出てもらう事になる。

 その場合は、こっちから取引を破棄したと捉えてくれても構わない」


「あぁ。それでいいなら、商談は成立だ」


 私とリリィの会話に、セシリア達は驚愕する。彼女達のとって、私の幽閉は衝撃的だったに違いない。

 だが、これはラスティアと明日香を守るためだ。その為なら、どんな仕打ちを受けても容易いことだ。


「本当にいいの? 場合のよっては長くいる事になるわ」


「構わないさ。ラスティアを守れるなら、大した事ではない」


「では、取引は成立ということでいいんだね?」


「あぁ。早くしてくれ」


 私がそういうと、リリィはセシリアに私は連れて行くことを命じる。セシリアは、私に申し訳なさそうにし、私を連れて議長室を後にする。

 しばらく歩くと、そこは暗く冷たい所だった。目隠し越しでも、それがわかる。


「では、服を脱がすわね」


 セシリアは、私の服を脱がし始める。もちろん、私が保有している魔具もだ。

 全裸にされた私は、今度は薄い布切れ一枚を着せられた。


「ごめんなさいね。でも、今は我慢してちょうだい」


「別にいい。では、何かあれば教えて」


 私は、独房の椅子に座らせ、セシリア達はここを後にし去っていく。しばらく座っていると、魔力を感じ、その方角に顔を向ける。


「『仮面の魔女ジャンヌ』か」


「驚いたわ。まんまとあれの口車に乗るなんてね」


「貶しに来たつもり?」


「いえ、様子を見に来ただけよ。それより、あなたに報告する事があるわ」


「何があった?」


「そろそろ、抗争が始まるわ。時間としては、後一週間と見ていいわ」


「一週間か。それまでには間に合いそうにないな」


「そうね。けど、何とかあなたをここから出せれるように手配するわ」


「あぁ。早めに頼む」


 そういい、『仮面の魔女ジャンヌ』は去ってく。こうして、私は独房の中で時間を過ごす。

 それから、私が外に出るのは、しばらく先の事になるのだった。

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