1ー4

PM 7:30 探偵事務所 如月


 翌日の夜。あれから進展もなく、気がつけば夜になっていた。

 明日香に偵察に行かせたり、私は私で、資料を読み漁ったりしていたが、これといった物はなかった。

 早く進展を広げなければ、魔術院と聖教会の抗争が起きてもおかしくない状況だ。

 しかし、それでも何も進展がないのはかなり厳しいものだ。


「お邪魔するわね。何か悩んでるようね」


「セシリアか。急だね。いつもなら、電話を寄越すのに」


 セシリアが、事務所にやってきた。どうやら、いつも通り立ちよってきた感じだ。

 セシリアは着くや否やと客人用のソファーにもたれる。


「最近はどう? 何か進展はある?」


「これっぽっちも進んでないよ。魔術が絡んでると考えづらいと、余計進まないものさ」


「ヘェ〜。あなたにしては、意外と苦戦してるみたいね。こっちも手付かずよ。奴らはどうも下隠しにしてるみたいだし」


「下隠し? どういうことだ?」


「聖教会の連中、私たちが尋問しても何も言おうとしないんですもの。その度に、「私は何も知らない!」って叫びながら耐え抜いてしまうのだがら余計面倒よ」


 セシリア達も、例の事件を調べてるそうだ。どうやら、聖教会側が口が堅いあまり有益な情報が得られてないようだ。

 私は、セシリアに昨日マリアが来た事を伝える。


「聖教会の使者が、昨日来たよ。私用でね」


「何ですって!? それからどうなったの?」


「どうやら、そっちもそっちで調べてるらしい。信用はできないけどね」


「そう。でも、不可解だわ。聖教会なら、あなたの所になんて、よっぽどの馬鹿でないとこないわよ」


「その馬鹿が来たんだ。これから起こることと、聖教会の現状を伝えにね」


「舐めプのつもり? まぁもしぶつかるなら、容赦なく殺すわ」


「そうだね。でも、私は参加できそうにない。私が出れば、この街を火の海に仕掛けないしね」


「その口でよく言えるわね。元老院老害どもを半殺しにしといて、よく言えるわ」       

       

 セシリアは私の過去を話しながら、煙草を吸い始める。それを見た私は、窓を少し開け、私も同じく煙草を吸い始める。


「ここは助かるわ。今じゃどこも禁煙禁煙うるさいんですもの」


「ここも本来は禁煙だけどね。まぁもう客は来ないし構わないさ」


「それはありがたいわ。それより、魔術院の状況でも話そうかしらね」


 セシリアは、タブレットを私に見せる。映し出されてる画像の全部は、例の事件の遺体の写真ばかりだ。


「これはどこのかい?」


「アフガンよ。例の事件を追って、執行者総出で調査に行ったのよ。そうしたら驚くことに、腐乱した死体が酷く遺棄されていたのよ。

 厄介なのは、これらには聖教会のタトゥーが彫られていた。私たちは、聖教会が何かしらの儀式に、一般人を誘い込んで犠牲にしたと捉えたわ。

 魔術研の調べだと、奴らが魔術を使った痕跡はなく、どれも薬物による中毒死と断定したわ」


「やっぱりか。私も、警察からもらったサンプルか調べたよ」


「相変わらず話が早いわね。でも、もっと面倒なのが、さっきも言った聖教会の尋問ね。

 奴ら、何をしても吐こうとしないわ。いや、違うわね。


「やはりそうか。となると、犯人は魔術院か聖教会の中にいることになるか」


「えぇそうね。それも、幹部クラスになるわ。もっと厄介なのがそれを盾に、抗争を起こそうとする輩が出てきてるのよ。そのせいで、本土から議長あのお子様が出る羽目になってるわ。

 聖教会もこの街に陣を取ってるしね」


「なるほど。では、もう始まるわけか」


 私の言葉に、セシリア達は難しい顔を浮かべる。


「もし、抗争が始まったら?『特級魔術師イレギュラー』以外は召集されるの?」


「おそらくね。『特級魔術師イレギュラー』の参戦は、戦争でいう核兵器の使用と同等と思ってもいいわね。

 その時は、ラスティアも出撃するわね」


 セシリアは、私に顔を見て申し訳なさそうになる。そうなった場合、どうなるかはわかっているからだ。

 コーヒーを飲み切ると、セシリアは立ち上がる。


「もう行くの?」


「えぇ。もう少しのんびりしたかったけど、仕事がある以上、長居はできないわ」


「そう。んじゃ、何かあったら教えて」


 私はセシリアを見送り、そのまま資料を見返す。ラスティアは、私たちが飲み干したカップを片す。

 こうして、私は事務所を後にし眠りにつくことにした。




翌日 AM 10:00


 次の日の朝になった。相変わらず、眠りにつけなかった私は、夜通しで書庫に入り、信憑性のある資料がないか調べていた。

 だがしかし、それらしい資料はなく、結局のところ進展が無かったことには変わらない。

 溜息を吐きつつ、事務所の方に降りる。

 服を着替え、事務所に入り今日も開店の準備を始める。そう思った時だった。


「動かないで」


 その声により、私は動きを止める。後ろを振り向くと、なんと声のある時は見覚えがある人間だった。


「美生か。何の真似だい?」


「いいから、黙って聞きなさいよ」


 美生は、赤い槍を私に向けながら、私の動きを止める。しばらく止められてると、玄関からセシリアが入って来た。


「悪いわね。議長直々の命令なものでね」


「何のつもりだ?」


「単刀直入に言うわね。キサラギ・アルトナ、魔術評議会議長直々の名により、あなたを連行させてもらうわ」


「どう言うことだ?」


「あなたには、無断で敵対組織の人物と接触した。それだけで重罪になるわよ。まぁ詳しいことは後でしっかりと聞くことにするわ」


 セシリアはそういうと、部下に私に黒い布を目に巻かせる。眼鏡を外そうとするが、拒否反応で外すことが出来なかったそうだ。


「主任! だめです! 眼鏡が外せれません!!」


「ダーインスレイヴ。封印形態でも、呪いが出てるとはね」


 どうやら、ダーインスレイヴの影響で眼鏡が取れなかったそうだ。仕方なく、私は眼鏡を外した。


「これでいいだろう?」


「えぇ。では、これを」


 そう言うと、セシリアは私の目を黒い布で隠す。私の視界は見えなくなったが、サーモグラフィのようにセシリア達が視認できる。


「封印布か。それも一番強い黒か」


「そうね。後、手にも巻かせてもろうわ。反撃されると、こちらの被害がやばいからね」


「はいはい。勝手にしてくれ」


 私が連れていかれそうとする時、ラスティアが降りてきた。


「姉さん!? どうしたのこれ!?」


「さぁ? 私もさっぱりだ。とにかく、しばらく開ける事になったからその間、お願いね」


「でも、納得できないよ!! お願い、姉さんを離して!!」


「ごめんなさい。文句はリリィに言って。それじゃ、失礼するわね」


 そう言い、セシリアは私を連行する。そして、大きめの車のトランクから私は座らせる。

 かくして私は、身動きを封じられたまま、リリィが待つ場所へ連行されるのだった。

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