1ー3

PM 7:50 探偵事務所 如月


 工房を出て、事務所に戻る。すると、足を組みながら来客を睨む明日香と、ラスティアが用意した紅茶を飲みながら、私を待ってる来客がいた。


「失礼。お茶を先にいただきました」


「――――見るからに、聖教会の使者か?」


「えぇ、ご安心を。今は私の私用ですので」


 客人用のソファーには白い服を纏った麗人が、紅茶を嗜んでいた。どうやら、私に用があるらしい。

 私は、明日香の隣に座る。そして、ラスティアは私にコーヒーを用意する。


「では、まず名前を聞こうか?」


「えぇ、もちろん。私はマリア・シュヴェリコフ。聖教会の修道女でございます。先ほどもお伝えしたように、ここに来たのは、私の私用でございます」


「私用ねぇ。私からしたら、それすら信用し難いんだけど」


「それは残念。それと、先に申しますが、今日はあなたとは戦う意思はないので、ご安心を」


 マリアは、紅茶を飲みながらそう答える。だが、私は彼女の身分のせいで、信用が出来ないでいる。


 ――――――――――――――――――――


 聖教会。私が属する魔術院とは、敵対している組織だ。

 私たち、魔術師は『原色』を信仰するものが多いが、聖教会は『無色』を信仰するものが多い。

 彼女たちにとって、星は神が作ったものというのが教えであるからだ。そのため、星の神秘を扱う魔術は神の祝福を乱用する愚か者で、真っ先に殲滅すべきと教えられているからだ。

 だが、しばらくは本土であるロシアがソ連政権下にあったせいで姿をくらましていたようだ。

 そのため、行動が公になったのもここ数年の事であるのだ。


 ――――――――――――――――――――


 ラスティアは、マリアのカップに紅茶を注ぐ。マリアは、注がれた紅茶を口に運び、会話を続ける。


「では、本題に入りましょうか」


「さっさとしてくれ。私とて、君と話してる時間はないんだ」


 私は、呆れながらマリアの話を聞く事にした。


「では、まずは簡潔に。ここ最近起きてる連続変死事件についてですが。我々教団では、あなた方魔術院の仕業と断定しております。

 本部では、今こそ魔術院を撃滅せんとヤッケになっている最中です。ですが、私は別の何かが糸を引いていると考えております」


「仮に、私たちがクロだったら? 君はどうする?」


「もちろん、同胞の仇討ちを行いますでしょう。しかし、調べたところ、この事件の死者はどれも入会してすらいないものが多いのです。

 その死者の大体が、私達教団の刻印が彫られたタトゥーが彫られたそうなんだどか。

 しかし、厄介なことに、それを根拠に魔術院と聖教会で一触即発の緊張状態が起きてしまった。そこで私は、単身あなたの所へ参った次第です。

 あなたなら、魔術院でも腫れ物扱いされてるあなたなら、まともに話ができると思ってね」


 どうやら、聖教会でも例の事件を調べてるそうだ。しかし、一部の過激思想を持つものによりでっち上げられ、魔術院との抗争を起こそうとするものがいるらしい。

 真犯人を炙り出すまでに抗争が起きるのも時間の問題だそうだ。


「なるほど。君が調べてるということは、そちらもシロということか」


「さすが、我々が最も警戒する魔術師は話が違う。えぇ、そちらとしては、残念でしょうが」


「別に、私は魔術院とズブズブではないよ。あそこと関係があるのは、あくまで誓約上の都合ビジネスさ。

 気に食わなきゃ私直々に奴らを滅ぼせる事だってできる。まぁ、今の議長はそんな事をしないさ」


「これほどの気迫とは、『特級魔術師イレギュラー』は一味も違う。ご安心を、私は今は戦う意思はないので」


「そう。では話を戻そう。君らは関与をしていないと。犯人は、それを利用して、世界各国で大量殺人をしているということか」


「えぇ。ですが、双方の誤解が激しく、いつ抗争が起きてもおかしくない状況でございます。そうなれば、双方の犠牲は甚大なものになるでしょう」


「そうだね。そうならないためにも、犯人を見つけ出すしかない。でも、全く手掛かりがない状態では、抗争が起きる前には犯人を炙り出すのが非常に厳しいって訳か」


 私がそういうと、マリアは何かが書かれてる紙を私に渡す。


「これは?」


「私のアドレスになります。何かあれば、こちらに」


「何故これを? 君が私に情報を流せば、君の身が危ないのは知ってるでしょう?」


「私があなたにそれを渡すのは、あなたが『魔女』だからです。もちろん、あなたに興味があるのもね」


 私は、彼女の発言に、体が反応する。


「気安く、その言葉を発するなよ。今日は見逃してやるが、次はないと思え」


「そうでした。あなたはその言葉を言われるのがお嫌いでしたね。では、またお会いしましょう。もちろん、戦場ではない所で」


 そう言い残し、マリアは去っていった。私は、窓際に立ち窓を開けて煙草を吸う。


「姉さん。本当に良かったの? もし、接触したのが知られたら、姉さんの身が」


「そうだね。そうなれば、私は連行されるだろう。その時は頼むよ」


「また能天気な。私だって、身分上どうなるかわからないよ。私は姉さんの『監視者コネクター』なんだから、気をつけてね」


「そうだった。以後気をつけるよ」


 私はラスティアに謝りつつ、吸い切った煙草を灰皿に入れる。


「それでどうするの?」


「抗争が起きる前には、犯人を炙り出す。でも、執行者の動向には警戒しないとね」


「あんなのと接触したんだから、気をつけないとね」


 私たちは、今後のことについて話し合う。かくして、私たちは今後のことを取り決めたのだった。

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