壇上に立つ君にまた会いたくて。

メラミ

はなさないで。

『あなたのことが好きだからっ――!!』


 スーツ姿のヨリトは舞台の中央で正面を向いて手を前に差し出している。

 ルイカはスポットライトを浴びている彼の姿を二階席でじっと見つめていた。

 結局またヨリトの舞台を鑑賞しにここにきていた。


 ――好きになった人。それは壇上に立つ君の姿。だけじゃない。


 舞台の公演が終わった後、ルイカはステージ裏の場所に向かう。

 ジュンとハツが今日のヨリトの公演の会場の裏側を教えてくれた。

 楽屋裏の廊下でヨリトが歩いてくるのを待つことにした。

 ヨリトに直接会いたくて――。

 役者としての彼の姿だけに会いにきたわけじゃない。

 一人の知人として、友人としてここに会いにきている。

 ジュンとハツには手紙を持ってきたことは内緒にしてある。

 推しと好きな人は違う。そう思っていたのに気持ちが移ろいでゆく。


「よー君なんて馴れ馴れしいよね。何度も会ったことあるのに緊張するな……」


 楽屋裏の廊下。関係者しか入れないところにルイカは待っていた。

 ジュンとハツは遠くでルイカを見守ることにする。


「先に帰ろうか」

「帰っちゃうの? ルイカのこと待たなくていいの?」

「うん……帰ろう」


 ジュンはハツの手を引いて会場を後にした。


 ――きっと大事な約束だから。そんな気がする。


 舞台の上に立った姿とは別人のように化粧やヘアメイクを落として素に戻ったヨリトが楽屋から出てくるとルイカと目が合った。


「あ、あの!」


 ルイカはヨリトを呼び止めることに成功した。彼は立ち止まってくれた。


「あっ! お前どうしてここにいんだ?」

「これ、渡したくて――!」

「手紙?」


 ルイカはヨリトに手紙を渡すことができた。

 ヨリトは柔和な表情を浮かべて彼女の手紙を受け取る。

 ヨリトは知らないふりをした。ジュンから話を聞いていたこと。あらかじめルイカが伝えたいことがあると言っていたこと――そのはルイカの前では話さないでほしいことだ。

 ルイカのその手紙に書かれている内容はもしかしたら――と思うと胸騒ぎがした。


「あ、ありがと。ちゃんと受け取ったから」


 ヨリトは耳を赤くしながら礼を言う。

 ふたりは手紙を介して手を繋いだまま。

 その手を離さないで欲しい。数秒間だけ。ふたりだけの時間。

 ルイカはヨリトの「ありがとう」という言葉を聞けてほっとする。

 ヨリトが手を離した瞬間、また役者としてのヨリトを一歩引いて見つめていた……。ヨリトは手紙を片手に微笑んで見せた。


「手紙、ちゃんと読むから。またな」

「またね、ヨリト君……」


 よー君と呼んでいたのに改まって名前を読んだ。

 思いを伝えるのに手紙をしたためたこと。その気持ちに嘘はない。

 今日の演目みたいにまたいつか会えるよね。


『あなたのことが好きだから――舞台上のセリフは情熱がこもっていて格好良かったです』

『それ以上に私は普段のです』



 壇上に立つ君にまた会いたくて。

 ルイカがヨリトに宛てた手紙にはその言葉が綴られていた。


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壇上に立つ君にまた会いたくて。 メラミ @nyk-norose-nolife

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