第33話 あかねの確信
「本当に分かったのかい? あかね君」
菅は事務所に入るなり、思わず満面の笑みになった。
「まあ、落ち着いて菅さん。分かったっていったって、状況証拠でしかないよ。物質的なものじゃない」
あかねがそう言うと、菅は倒れるように、膝をついていた。
「それじゃあ、確実ではないってことか」
「菅さん。取り敢えず、ソファに座って」
菅は真と同じソファに座った。
「何だ、結局分からないじゃないか。このビルの階段、結構しんどいんだぞ」
と、彼はぶつぶつ文句を言いながらあかねを見た。
「静かに! 今から犯人が起こした犯行を話します」
と、あかねは言った。
「犯人はまず、あの水野さんが殺された日、科学室で待ち合わせをしたんだ」
「それは、別の場所でも良かったんじゃないのか?」
「確かにそれでも構わなかった。しかし、科学室で必要なものがあった。それが、盗まれたクロロホルムが入っているビンです」
「クロロホルム? そんなものを使ったのか? どこで手に入れたんだ?」
菅はあかねが急に何を言っているんだという目で見ていた。
「落ち着いて菅さん。まあ、菅さんが声上げるのも無理はないね。だって、科学室の薬品庫にあるクロロホルムが盗まれたのは昨日知ったんだから」
「昨日知った? 死体現場検証したとき、科学の先生は何も言わなかったが……」
「隠してたんだよ。菅さんが科学の沖田先生と確認したときに、薬品庫が開いてたんじゃないの?」
「んー、そうだったかな?」
菅は腕を組んで首をかげていた。
「とにかく、それを使って、犯人は水野さんが来るのを待った。そして姿を現した時に、咄嗟に後ろから彼女にクロロホルムが入ってある、濡れたハンカチを嗅がせ、眠りについた後に、首を絞めた。この時、彼女は昏睡状態になってるから、死に至る衝撃を加えてもビクともできない。つまり、みっちり時間を使って殺害することもできるはずだ」
「という事は、犯人は男じゃなくてもできるという事か?」
「その通り。犯人は先生が、管理がずさんだと知ってるから、この犯行を思いついた。しかし、犯人の考えは甘かった。事件を起こしてしまった事で、科学の先生が次の日からきちんと鍵を掛けてしまったのだ。本来なら、クロロホルムの液体を家に持って帰り、あらかじめ購入しておいた空の容器に移し替え、本来のビンを元に戻すつもりが、戻せなくなってしまった」
「なるほど……。犯行はそれで、自殺にさせてみたのはどうしてだい?」
菅は前のめりになって聞いた。
「犯人は水野さんだけを殺害するだけではない。まだ、いろんな人と殺害する動機がある」
「それが、森本君かい?」
「森本君もそうだね。ただ、他にもいろんな人を殺害しようとしているんじゃないかな」
「それは何故だい?」
「クロロホルムを盗むほどだ。アレを使った犯行はまだ起こすつもりでいる。まあ、どんな状況であれ、人を殺すことは許されない。犯人はあたしが食い止める」
「どうやって? そもそも犯人は誰なんだ? 校長が怪しそうだけど」
「いや、校長は事件当時、きちんとしたアリバイがある。あのアリバイを崩せることが出来たとしても、森本君を突き落とすことなんて、どう考えても不利なことをする意味がない」
「それだったら、警備の石田はどうなんだ。彼は一日中仕事をしていた。あの人ならこの事件は可能だと思うが……」
「石田さんは水野さんのことは知らない。それだともっと滑稽になるよ」
「じゃあ、誰なんだ犯人は、もったいぶってないで教えてくれ」
「犯人はおのずと出てくるよ。それをあたしは仕向けてみる。次のターゲットを絞るんだ」
そうあかねは遠くを見て言い、最後まで犯人の名前を言わなかった。
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