第29話 中断されたデート

 真とつむぎはここから十分ほどの近くの喫茶店に入っていた。

 土曜日だからなのだろう、店内では客が多いが、テーブル席は空いていたので、店員に呼ばれて向かい合って座った。


「今日はお客さんが多いですね」

 と、つむぎ。

「そうですね。つむぎさんはたまにこの喫茶店に来たりするんですか?」


「いいえ。あたし普段あまり外に出ないんです。スーパーか書店かどちらかくらいしか行かないんで……」

「へえ、そうなんですね」


「飯野さんは、このお店よく行かれるんですか?」

「そうだね。記事を書くときに、この場所で借りて書いてるときもあるね」


「飯野さんはジャーナリストって聞きましたけど」

「そうだよ。基本未解決事件を追ってる記者なんだけど、中々、難しいんですよ。その事件に首を突っ込むんだけど、やっぱり物事が進まない。だって、警察もお手上げになった事件を一人で解決できるかって、難しいよ」


「飯野さんは、どうして、ジャーナリストになろうと思ったんですか?」

「未解決事件って多いじゃない。加害者だけが得しているのがどうしても許せなくて。それで、一つでも解決で来たらいいかなって。元々、文章書くのが好きだったし、良いかなって思ったんだ」


「でも、事件は解決してますよね。こないだの」

「ああ、そうだね。でも、それはお姉さんがいなかったら、僕は多分無理だったと思う」


 意外とつむぎが以前よりも話を振ってくれる。確かに二人しかいないと、話をするしかないのだが、それが真は嬉しくて、ついつい自分の話になると饒舌になってしまう。

 二人が頼んでいた、ホットコーヒーを店員が持ってきてくれた。今日は随分と気温が下がり、冬間近になってきている。

 二人はカップを持ちながら、口をつけた。


「そう言えば、お姉さんは探偵事務所を開いて結構経つの?」

「半年くらいですかね。全然、来客者来ないですけどね」

 ハハハ、と真は苦笑した。


「あそこで、二人で住んでるんだよね?」

「そうです」


 つむぎはそれ以上、自分の話をしなかった。やっぱり警戒しているのだろうか」

 次に何を喋ろうかと、真はコーヒーカップを片手に考えていると、玄関のドアベルが鳴ったので、たまたま店内に来た客の顔を見た。


 ……ん? どこかで見たような。

 一瞬そう思ったが、すぐにその人が西京高校の校長だとすぐに分かった。


 ただ、彼は一人だけではない。もう一人、十代であろう女性がいる。二人のやり取りからすると、親子ではないというのは分かった。

 そもそも、校長は家庭を持っているのかさえも真は把握していなかった。


 二人はテーブルに向かい合わせで座った。真からは校長の後ろ姿しか見えない。もう一人の女性は、真は見たことが無い。

 二人と真たちとはかなり遠く、二人は真たちの存在には気づいていない。


 真はつむぎに言った。

「ドア付近のテーブルに校長がいる」

 つむぎは驚いて。後ろを振り返る。しかし、彼女も校長の後ろ姿しか見えない。

「どこですか?」


「あっちの方、後ろ姿しか見えないから、分からないけど。向かい合わせで座っている女性って君は見たことないかい?」

「ああ、あの女子は、元木さんだと思う」


「元木さん? どんな人?」

 つむぎはまた真と向き合った。

「クラスは違うんだけど、二年の時が一緒で、学年トップの勉強優秀な女子です。いつも休み時間も勉強してる子なんですけど。テストの点数とか、努力してきたことをバカにすると、めちゃくちゃ怒る子で……」


「その子の進路はどこに行くとかって、聞いてないかい?」

「まあ、あれ程勉強してるから、優秀な大学に行きたいとは思います。でも、どうして?」


「つむぎさんは校長の黒い噂を知ってる?」

 真は躊躇しながら、思わず彼女の目線を逸らして言った。

「知ってます。お姉ちゃんからは聞いてるんで」

 彼女は真っすぐ真を見て言った。


「取り合えず、校長たちの足取りを追ってみよう」

 真はそう言うと、彼女は頷いた。

 校長たちは飲み物を頼んだ後、それを一気に喉に流し、立ち上がり、会計の方に向かっていった。


「やっぱり、思ってたけど、すぐにここを去るようだ」

 真はぽつんと呟いた。

「どうしてでしょうか?」

 と、つむぎ。


「何しろ、学校からそれほど遠くない喫茶店だからね。誰かに見つかったらおしまいだ。何故ここで待ち合わせをしたのかが不思議だ」

 校長たちが会計を済ませ、ドアを開けると、すぐさま、真たちも立ち上がった。


「忘れ物はない?」

「大丈夫です」

「よし、後を追おう」

 真たちも会計を済ませた。

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