第27話 夢から分かった閃き
目の前は真っ暗だった。
何も見えず、一人だけ。
あかねは走っていた。真っ暗闇のトンネルの中だった。
後ろからは得体のしれない何かが迫ってくる。
それに抜かされないように必死になっている。
隣にはつむぎがいる。幼い彼女だ。まだ小学生も上がっていない。しかし、背後からくるものに捕まらないように必死に走っている。
あかねはつむぎと同じ速度で走っている。彼女を守りたい。追ってから逃れられない恐怖に包まれていた。
すると、急に視界が開けた。そこには草原の中だった。
二人はハッとして、走るのを止めた、
目の前にはあかねの父親と母親がいた。
「お父さん、お母さん」
そう叫ぶあかねに、目の前にいる父親と母親は後ろ姿から振り返った。
その顔にあかねはハッと息を呑んだ。
そこには黒いグロテスクの丸い物体で包まれていた。二人ともだ。
「待ってたよ、あかね。一緒に帰ろう」
キャー
あかねは布団から飛び起きた。
夢?
あかねは胸につっかえていたモノが取れた感じがして、ゆっくりと深呼吸をした。
部屋はカーテンの隙間から光が差している。もう朝だという事が分かった。
あかねはふと、自分が涙を流していることに気が付いた。
あかねは父親と母親の顔を見たことが無い。あかねが物心を付く前から施設に預けられていた。
そこで、つむぎという少女がいた。彼女は妹だと施設の人から言われた。そうなのかとその時は思った。
しかし、それはあかねが小学六年生の時に姉妹じゃないというのが分かった。
何故なら、顔が全然似ていないからだ。
あかねは目がぱっちりしているのに対して、つむぎは釣り目で、鼻筋が通っている。
物静かだが芯に秘めたるものがあるし、あかねは団子鼻で一見優しそうな顔をしている。しかし、話すと、我が強い。
しかし、割れ鍋に綴じ蓋ではないが、互いに違うからこそ、知らぬ間に意気投合している。それが不思議だ。
あかねが施設の人に問いただすと、施設の人から、実は、姉妹ではないと深刻な告白をされたが、あかねはそうだろうな、と、すぐに納得した。
だが、仲が良かったし、このまま、姉妹でいいと思った。実際に役所に届け出を出している書類の続柄は姉妹になっている。
どうして二人は姉妹としたのか、それを施設の人に聞くと、どうやら、二人を預かってもらうときに、その連れてきた男性から、姉と妹と言われたからだそう。
しかし、あまりにも似ていない為、こっそりDNA鑑定をしたらしい。すると、姉妹ではなく赤の他人だった。
施設の人はそれを彼女らに言うかどうか迷っていたが、一人変わった女性がいて、その人が無神経にその話をあかねにしたのだ。
施設の中で大事件になって、揉め事にもなったのだが、当の本人たちはあまり嫌な気持ちでもなかった。
そんな、姉妹ではない姉妹である。
あかねは自分の部屋を出たら、つむぎがエプロン姿で「おはよう」と、明るく言った。
「おはよう。今日学校は?」
「今日は休みだよ。土曜日だから」
「あ、ああ」
あかねはカレンダーを見ていた。
「うなされたようね。悪い夢でも見た?」
つむぎはスクランブルエッグとポテトサラダを乗せた皿をテーブルに置いた。
「うん、悪夢だったね」
あかねは席について、グラスに入った緑茶を飲んだ。
水野も両親に見捨てられた者だが、過去にあんな夢を見たことはないのだろうか。
目が覚めても一人だったのに、怖くなかったのだろうか。
……。
真剣な表情で真っすぐ見つめているあかねに、つむぎは言った。
「どうしたの?」
彼女はエプロンを取り、席に座った。
「そうか……」
あかねは立ち上がった。
「そういう事か!」
「何、何かひらめいたの?」
「うん、今回の事件の発端が分かったような気がする」
そう言って、あかねは自分の部屋に戻った。そして、しばらくして、彼女は部屋着から私服に着替えた。
「ちょっと、出かけてくる」
「出かけるって、どこに? どこでもいいけど、朝ごはんだけ食べてよ!」
明らかに嫌悪感を出すつむぎに、あかねは「ごめんごめん」と、また席に座り、小さく「いただきます」と、言った。
「それで、何が分かったの?」
「ん? ナイショ」
それ以上は互いにその話をしなかったのだが。
「でも、全てが分かったわけではないんだ。ただ、人というのは誰かいるから頑張れるんだって……」
「え?」
「旨い、今日の朝食は特別なんじゃない。何か隠し味でも入れた?」
「入れてないよ。いつもと変わらないよ」
わざとあかねは話を変えたことに、つむぎはしばらく疑問だった
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