第25話 校長のアリバイ

 職員室に三人はお邪魔をすると、校長先生は中にはいるが、先客がいるらしく、三人は廊下で待っていた。

 すると、校長室の中から人の声が聞こえてきた。


「早く、学校は犯人を捕まえてください!」

「ちょっと、お母さん、落ち着いてください」

 校長先生の声は、あまり廊下に響き渡らなかったが、相手の女性の声は冷静さを失っているようで、声を張り上げている。


「翼は意識を取り戻せなくなったら、学校側はどうしてくれるんですか?」

「待ってください。翼君の件は確かに我々が保証します。二度と今回の事件を起こさないように、各々の生徒らにはきっちりと指導しますんで」


「指導って、どういうふうに?」

「まあ、今日その会議があるので、先生全員出席させて解決には致しますので」


「警察には連絡してるんですか?」

「ええ、もちろん。色々と生徒たちに事情徴収を聞き回っている最中です」


「今後色々あったら、全部あなたの責任ですからね!」

 そう言って、女性、森本の母親は、戸をきつく横に滑らせて姿を現した。

「あ、あなたたちは……」

 真とあかねを見て、彼女は目を丸くする。


「この前はどうも……」

 あかねは軽く会釈をする。

「まあ、聞かれてたようね。別にいいですけど……」

 森本の母親はこないだ病院であった時よりも、痩せこけていた。あれだけ森本に溺愛しているからこそ、いまだに目が覚めない彼に対し気が動転して、校長先生のところに訪れたのだろう。


 あかねは何か聞き出せるかと思っていたが、言葉を失っていた。この状況の中で森本のことを話すのは難しい。

 それを察してか、急いでいるのか、「では、また」と、森本の母親は一礼をして去っていった。


「あの人が、森本君の母親なのかい?」

 菅はあかねに聞いた。

「うん、そうだよ」


「まあ、息子が急に、誰かに階段から突き落とされたんだったら、ああいうふうになっても可笑しくないな。ん? ドアが閉まってないぞ」

 そう菅は、校長室のドアを閉めようとしたら、中から、立っていた校長が「君たちか、入りたまえ」と、こちらに近づいてきた。


「あ、すみません」

 菅は言って、三人は中に入った。


                      


「それで、何の話だね」

 校長先生は先程とは打って変わって、落ち着いた表情を作りながら菅を見ていた。どっぷり社長室の椅子につかっていた。


「単刀直入に言いますが、校長先生は生徒たちの成績を判断しているのですか?」

 三人は、校長の机の前にあるソファに、向かい合って座って、菅が意を決したように言った。


「何が言いたいんだね? 言っている意味が良く分からないんだが」

「すみません。生徒たちの各々の成績は、どなたが付けられているのでしょうか?」


「それは、各担任の先生に任せてるよ。それが、どうかしたのかね?」

「あくまで噂としてとらえてください。前の学校で、あなたが女子生徒と密会してホテルかどこかで過ごし、それを成績に加担したという話を聞いたんですが……」


「つまり、社長が隠蔽工作してるんじゃないかって話です」

 横からあかねは鬱陶しそうに菅を見た。

「私が、そんなことしてないよ。そんなの。何なんだ。その噂は、この前の変な奴と同じことを言うつもりかね」

 校長は声を張り上げているが、明らかに動揺している。


「隠蔽をしていたという、前の学校から聞いてるんです。あたしたちは今回の事件からそのことに行きつきました。事実ではないんですね?」

「違う。俺はそんなことしてない!」

 社長はまるで自分に対して叫んだ。


「まあ、どちらにしても、もっと捜査したら、事実か判明できますが。ちなみに、社長は水野さんが殺された十時から十一時、どちらにいらっしゃいました?」

「あの日は友人とバッタリ会って、深夜まで居酒屋で飲んでいたんだ。嘘じゃない」

 社長はきょろきょろと目を動かし、三人を見た。


「ちなみに、何という居酒屋ですか」

「居酒屋“ふるさと”っていう小さい居酒屋だ」


「住所はどこですか」

 校長はその場所の住所を言った。細かいところまでは分からないが、駅の近場だった。


「分かりました。あたしからは以上です」

「すみません。お時間取らせてしまいまして」そう言って、菅は立ち上がった。


「本当に、君たちは何なんだ。早く事件を解決してくれたまえ。森本さんのお母さんに怒られたじゃないか」

「すみません。中々、ことが運ばなくて……」

 菅は恐縮しながら頭を下げた。


「あの人はPTAの会長なんだ。あの人に言われたら、こっちもたまったもんじゃない。いいな」

「はい、すみません」

 何だか、菅は悪くないのに、謝っているのが、真はいたたまれなくなった。

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