第22話 通夜後の会話
「あの二人のせいで、水野さんが可哀そうだよ」
あかねは通夜の会館を出てから、そうボヤいていた。
「確かに、お母さんは娘さんのことを可愛がってなさそうでしたね」
と、真。
「ホンドだよ。お母さんだけでなくて、あの内心の夫もそう、あれはモラハラをしないと気が済まない野郎だよ」
「せっかく喪服も購入したのに、こんなことになるなんて……」
「そうだよ、全く。フォーマルスーツ店の人にいろんなことをお願いしてもらって購入したのに、いざ準備万端で向かった先がこんなことになるなんて……。つむぎは水野さんの家庭のことって知ってた?」
「ううん」つむぎは横に振った。「水野さんとはそれほど親しかったわけじゃないから。挨拶程度しかしなかったなあ」
「まあ、演劇に力を入れてる人間と、美容に力を入れてる人間は違うもんね」
「誰が、美容に力を入れてるって!」
つむぎは半分怒っていた。
「いやいや、つむぎはいろんなことに興味があるから敢えて言っただけだよ。しかし、あんな家庭で暮らしてるなんて、相当嫌だっただろうな」
「それが、事件の引き金になったってことはないですか」
と、真。
「どうだろうね。水野さんは掘り出したら、掘り出すほど、可哀想な人なんだなって。彼女のストレスが日に日に大きくなっていく感じが痛いほどわかる」
永野の母親、都美子は、溝手とどこで出会ったのだろう。彼女は色々と仕事をしていた事は言っていたが、もしかしたら夜の仕事もしていたことも十分にある。
水野とはあんまり接していないという事は、普段から同じ屋根の下で暮らしていないのだろうか。どちらも外出が多かったのかもしれない。
という事は、都美子は、外出先で溝手と知り合ったという事が高い。
ただ、あのやり取りと聞いた時、溝手が水野明日香のことは知っていただろうし、会っていたのかもしれない。
溝手の年齢は分からないが、もしかしたら、都美子よりも年下なのかもしれないな。
そんなことを考えていた真だったが、あかねとつむぎは話をしている。今夜はカップラーメンでいいという話だ。
あかねは度々真の方を見ていたが、彼が考え事をしているのを察して言った。
「水野さんの家庭の事情を考えても仕方がないんじゃない。あの両親だよ。男の方は認めたくないけど」
そう言われて、真は「そうですね」と、言った。
あかねは伸びをした。「さあ、景気づけに飲みにでも行きますか」
すると、つむぎと真は「えー」と互いに嫌味っぽく言った。顔を見合わせて、二人は赤くなった。
「ちょっと待ってくださいよ。あかねさんはお酒飲めますけど、僕は飲めないんで……」
「へえ、そうなの。今日から頑張ってお酒に強くなろう」
あかねはきょとんとしている。
「ちょっと、お姉ちゃん」
こちらの方は今にも殴ってきそうな、怒り震えるような声で言った。
「な、何」
あかねはたじろぐ。
「そんなお金どこにあるの。もっと現実見てよ」
つむぎはこぶしを握り締めて、はあっと、息を吐く。
「ごめんごめん。じゃあさ、パチンコはどう? お金を稼いでそのお金で……」
あかねはつむぎを見たが、彼女からパンチを繰り出されそうだったので、
「いや、ジョーダンだよジョーダン。本気になっちゃダメだよ」
そう慌てて言う、あかねに対して、
「もう、本気なのか冗談なのか、ハッキリしてくれない?」
「へいへい」
あかねは笑った。
あかねにとってはつむぎとこんなやり取りをして、ストレスを解消しているんだなと、真は何だか心が温かくなった気持ちだった。
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