第17話 第二の事件
「そう言えば、この間のマンガ面白かったよ」
栗栖が校内の屋上で言った。
「だろ? あのマンガ前原からオススメされたんだ。いま、流行りのマンガらしいぜ」
森本が寝そべりながら、彼女に言った。
昼休みの屋上で、二人は弁当を食べた後にくつろいでいた。弁当は栗栖の愛妻弁当ならぬ、愛情弁当だった。
森本は美人で日本人とアメリカ人のハーフの彼女に、一か月前から料理の勉強をしていて、毎日作ってくれる、味はまずまずの弁当を食べて、ご満悦だった。
二人以外にも屋上には何人かいた。一人で食べる生徒もいれば、男子生徒の友達二人で食べる生徒、彼氏彼女らしき二人で食べている生徒もいた。
「明日、そのマンガの続刊を持ってきてやるぜ。今日前原に言ってやるから」
「ありがとう。ねえ、翼君。今日誕生日なんでしょ」
そう言って来栖は恥ずかしそうに、弁当をカバンにしまい込んだ。
「ああ、そうだよ。何、何かプレゼントあるの?」
森本は起き上がった。
「校庭に行かない。出来れば体育館の裏に行きたいんだけど……」
そう赤面している来栖の顔を見て、森本ははにかみながら言った。
「いいぜ」
森本は今日、十月十三日に誕生日を迎えた。朝から靴箱にバレンタインデーのようにプレゼントがあり、そこに“お誕生日おめでとう”と文面と何年何組の名前が書かれてある。
それから休み時間は、そんな女子生徒が誕生日プレゼントを持ってきてくれた。無論、森本は全部受け取った。
それを横目に栗栖は何も言わなかった。嫉妬しているわけでもなく、寧ろ、もらえればもらえるほど勝ち誇った笑みを浮かべていた。
今年はいろんな楽しいことが待っている。森本は本来なら笹井つむぎからプレゼントが欲しかったが、多分今年ももらえないままだろう。
森本と栗栖は立ち上がった。
「ちょっとあたし、このカバンを教室に返してくるから。先に校庭の方に行ってくれる」
そう言って、恥ずかしそうに彼女は森本の顔を見ないまま、速足で校庭の階段を下りた。
森本は何のプレゼントをもらえるのか想像し、ポケットに突っ込みながら、ゆっくりと階段を下りた。
校舎は五階建てで、中ではたくさんの生徒が談笑したり、歩いたり、走ったりしている。
森本が三階から二階に降りようとした時に、何者かが近付き、ニヤッと笑みを浮かべて、その人物は森本の背中を強く押した。
うわっ
森本は急に宙に舞うようにスローモーションの感覚で、階段を転げ落ちた。
「キャー」「うわー」
と、男女の声が聞こえてくる。森本は手をポケットに入れていたので、思い切り頭を打っていた。
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