第16話 校長の本性
「だから、関係ないって言ってるだろう!」
そう怒鳴り散らしているのは校長先生だった。
「おい、誰か、こいつをつまみ出せ」
校長先生が他の先生に言う。教頭先生が校長室に入って、また出てきた。そこにいたのはメガネを掛けて、痩せ型の国分だった。
「おい、君。でたらめなことを言うんじゃないよ。君は学校出禁だからね」
そう教頭先生が言った。校長先生は横に広がるような太った体形に対して、教頭先生は背も高く、肩幅が広いダンディな雰囲気だった。
「国分さん、何してるんですか?」
思わず真は叫んだ。
「あ、飯野か。イヒヒヒヒ、僕は真実を確かめたくて、校長先生に聞いてみただけだよ」
相変わらず、人を寄せ付けない陰気なオーラが漂っている。あかねは、ここは真に任せておこうと、ゆっくり彼の後ろに隠れるようにした。
「今回の事件に対して、校長先生に聞いてみたんですか?」
「今回の事件とは違うかもしれない。フフフ、でも、大きなネタにはなりそうだ」
「どんなことですか?」
真は恐る恐る聞く。この人は未だにどう接したらいいのか分からない。
「そうだな。君たちは事件ことを解決したくて、学校に足を運んでいるんだろう」
「はい、もちろん。そうです」
国分は右手の人差し指と中指で、自分の額に押し上げるようにして、考えているふりをした。相変わらず、ナルシストである。
「それだったらこうしよう。僕は君にこのネタを上げよう。その代わり、君に頼みたいことがある」
「何ですか?」
「今度、僕と一緒に廃校になった校舎をくらーい深夜で、探索しよう」
イヒヒヒヒと、笑う国分に、あかねは自分はこういった良く分からない人物が一番苦手なのかもと、身震いした。
真はしばらくためらったが、「いいですよ。その誘いに乗りましょう」
「分かった。ここじゃあ、先生たちがいるから、学校を出てから話をしよう」
「実は、校長先生、種田信二は女子高生と淫乱の関係にあるのさ。ヒヒヒ」
学校の校門を出て歩き出してから、急に彼はその言葉を言った。
「どういうことですか?」と、真。
「簡単に言えば、生徒一人の全ての科目、成績の判断は校長にある。つまり、校長は無類の女好きで、しかも女子高生が好きなんだ。その女子高生と遊んだり、話をしたりすると、成績を上げるといった、ことをしてきたのさ」
「ロリコンってこと? うわあ、キモ」
思わず、あかねは両腕をさすった。もちろん男性の真であっても引いてしまう。
「うひょひょ。君たちが青ざめているのを見ると、楽しいなー」
そう言って、国分は口角を上げている。
「それは、この西京高校での出来事だという事なんですか?」
「いいや、前の学校ではそのことで有名だったみたいさ。そういったことを平気でする校長なのさ。この学校に来たのは三年前だから、してても可笑しくない」
「そんなことを本当にしてたら、犯罪ですよ」
と、真。
「僕はしてると思うけどね。フフフ、このネタを君たちにやろう。その代わり、飯野君、廃校の件をまた決めるから、よろしく、フフ」
国分は手を上げて、駅の方に歩いて行った。
「ありがとうございます」
真は背を向けた国分に対して、頭を下げた。
「あの件、本当なのかね……」
あかねは車を走らせて言った。
「多分、そうでしょう。国分さんは変わり者ですけど、調べるときには緻密に調べますから」
助手席で真は、あかねの顔を見て言う。
「本人もわざわざ校長先生に確かめるくらい自信ありげだったもんね。しかし、怖いもんだ」
「あの校長がそんなことする人とは、思わなかったですね……」
「いいや、あたしはそんな人に見えたよ」
あかねは赤信号になって、車が止まっている後続車の後ろに車を停止した。
「まあ、確かに何か焦ってそうには見えましたよね」
「その工作が公に出てしまうからなんじゃない。水野さんが殺されたなんてどうでもよかったんだろうね」
と、ここで、二人はお互い話すことを止めた。学校側が水野の殺害に不安がっているのは別の意図だという事が、車内の空気を暗くした。
事務所に帰ると、そこに菅の姿があった。
「おお、帰ってきたか!」菅は黒いソファに、前かがみになって座っていた。
「あれ、何で菅さんがいるの?」
あかねはきょとんとした顔でみる。
「いやあ、つむぎちゃんが家に入れてくれてね。多分二人ももう少ししたら返ってくると思うって、上がらせてもらったんだ」
あかねは奥にいるつむぎを見る。彼女はいつものように晩御飯を作っていた。
「菅さんが来たという事は、何か進展があったという事だね」あかねは菅の向かい合わせでソファに座った。
真もあかねの隣に「お邪魔します」と小さく言って座った。
「ああ、今日彼女の死体解剖を行ったところ、彼女は晩御飯を食べてることが分かった。つまり、晩御飯を食べ終わった後に、誰かと落ち合い、学校の科学室で首を絞められ遺体となって発見されたという事だ」
「それで、死亡推定時刻とかは、よりはっきりしないの?」
「できた。昨日食べた晩御飯がマクドナルドなんだ。近くのマックに回ったところ、二日前に一人で食べてた高校生らしき女性がいたってことが分かった。一人で食べるのが珍しかったから、その女性従業員は覚えていたらしい。品名までも覚えていて、それと水野の解剖した食べ物と一致する。そこで時間を計算したところ、死亡推定時刻は午後の十時から十一時の間という事になる、」
「なるほど。食べたものから、死亡推定時刻がわかるという事だね。これで、時間が絞れたね」
「だけど、問題はアリバイですよね。みんな家にいたという事だけで、外出しているという生徒がいないという事なんですけど」
と、真。
「そうだよね。とすると、その聞いた生徒に犯人がいないか……。それとも、誰かがアリバイに対して嘘を言っているか……」
あかねも真も顎に手を置いて考えた素振りを見せる。菅は思い出したように言った。
「あ、明日は水野明日香のお通夜があるんだ。家族葬なんだが、七時から入れるそうなんだ。行くかい?」
「ああ、そうだよね。亡くなったら、お通夜があるもんね。あたしも真君も行くよ」
僕は勝手に行くことになっている、真は思ったが、もちろん真も同意するつもりだった。
「菅さんは?」と、あかね。
「俺は仕事で二人と同席するのは難しいと思う。ただ、仕事が終わり次第、彼女のお通夜にお邪魔させてもらうけどね」
「分かった。喪服あったかな」
と、あかねは独り言のように呟いて、つむぎに言った。
「ねえ、つむぎも明日水野さんの通夜に行く?」
「行くよ」
彼女は聞いていたらしく、即答で答えた。
「あんた喪服は?」
あかねが言うと、つむぎは笑った。
「あたしは学校の制服があるから」
「あ、そうか。便利だよね。学校の制服って……」
そんなやり取りを聞いていた、菅と真は互いの顔を見て、苦笑いをした。
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