第13話 山本の証言

「あたしは笹井あかねと申します」と、彼女に名刺を渡した。「妹のつむぎがお世話になってます」

 そう言って、彼女は頭をかいた。

「ああ、笹井さんって、確か別のクラスにいたなあ」

 その女子生徒は名刺を見ながら呟いた。


「あなたの名前を教えていただけますか?」

「私は山本静香です」

 山本静香――水野のライバルだった女子生徒だ。


「山本さんは水野さんとライバルという仲だと聞いたんですが……」

「ライバルって……別に。ただ、お互い同じ目標を持っていたこともあって、競ってはいましたけど……」

 そう言って、山本は自嘲した。


「目標が同じとは、森本君に気持ちがあるということもでしょうか?」

 そうあかねが言うと、

「まあ、別に……。何で初対面の人にこんなこと言われなくちゃいけないんですか?」と、少し険しい顔になった。


 山本が隠したい気持ちは分かるが、彼女は素直じゃない、疑ってかかる性格なのだろう。真は何か言われたら嫌なので、メモを取るのを止めた。


「すみません。ですが、水野さんが亡くなられているんです。警察は他殺として捜査をしてるんです。どうか、その辺もご協力お願いします」

「まあ、いいですけど……」

 山本はそっぽを向いて言った。


「それで、森本君に近づくために一生懸命演技の練習を?」

「それだけじゃないです。やっぱり水野さんは演技力が凄いんです。それが羨ましかった、私は色々と練習をしました」


「それは顧問の的野先生も山本さんに入れてでしょうか?」

「先生と二人で練習もしましたが、あまり時間は取れませんでした。何故なら的野先生は水野さんに力を入れてて……。それに、私は水野さんと一緒に練習したくないし……」


「それは何故ですか?」

「察してください」

 それほど水野が羨ましくて、憎らしかったのだろう……、真は思った。


「的野先生は水野さんに、よく指導していたんですか?」

 すると、山本は真っすぐあかねを見た。

「はい、私たちは大体五時半には部活を後にするんですが、水野さんは、毎日一時間は練習させられたんじゃないですか?」


「させられた? したんじゃなくて?」

「はい。あの先生、熱を上げると、人が変わってしまうので。一度……」と、山本はそこで口をつぐんだ。


「一度……。何ですか? あたしたちはこのことには外部には漏らしません。約束します」

 あかねがそう言うと、山本は目を逸らした。

「一度だけ、的野先生は水野さんに体罰を与えてたのを、私は見てしまったんです」


「それは、いつのことですか?」

「もう、三カ月前ですけど……。私は部活が終わって、その後は家で練習しようと思ったんですが、肝心の台本を忘れて、学校に戻ってここの教室に入ろうとしたんです。そしたら――」


『何で、そんな芝居なんだ』

 と、的野は水野の左頬にビンタをした。

『す、すみません』そう言って、水野は泣いて頭を下げた。

『もう一度やってみろ』


「そういっても、水野さんは涙が止まらなくて、演技は出来ずにいました。的野先生からはそれでも怒号の声が聞こえてきました。私は怖くて、その場から逃げました。その後は、分かりません」

「あの先生が体罰なんて……」

 真は唖然とした。


「まあ、それだけのプレッシャーも大きいのかもしれませんが……。ある意味、私は水野さんよりもお芝居が下手だったから良かったですけど」

 そう言って、山本は笑っているのかと思いきや、少し不貞腐れた表情だった。


「言いたくもないことを打ち明けてくれてありがとうございます」あかねは言った。「これから山本さんは演劇の大学に行ったり、演劇に対して将来を考えているんですか?」

「当然です。私はもっと上手くなりたいと思ってるんで。ただ、この文化祭の劇をどうするのか分からないですけど、終わり次第、演劇の大学へ行こうと決めています」


「分かりました。最後に、一つだけお聞きしたいんですが、二日前の水野さんが殺害された、九時から十二時半の間、何をされていましたか?」

「私は家にいました。それからお風呂に入って、台本を覚えて、就寝しましたけど……」


「それを証言できるのは?」

「両親だったら分かります」


「ありがとう、頑張ってくださいね」

 そう言ったあかねに対して、山本は軽く会釈をして去っていった。


「どうですか、山本さんは?」真はあかねに聞く。

「悪くないよ。スタイルも良いし。性格はちょっと素直じゃないけど、高校生はあんなもんでしょ」


「水野さんのこと、憎んでましたね」

「うーん、お互い同じ目標で、その枠が一つしかないのであれば、取り合いにはなるよね。まあ、事件の動機は十分考えられる」


 そうやり取りをしていると、「あれ、あんたら、今日はここにいたんだ」と、聞き覚えのある声がした。

 二人が振り向くと、石留唯の姿だった。


 石留――彼女が水野に対してイジメをしていたのか。こんな気さくな感じの雰囲気を出す彼女が……・

「石留さんも水野さんの事件の事情聴取に協力してもらいます」

 そう真は言った。

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