第12話 演劇部生徒たちに聞き込み

「何だよ。あの人、教師として失格じゃないの?」

 あかねは腕を組みながら、校庭まで足を運んで苛立ちをぶつけていた。

「本当ですよね。あの先生は生徒に勉強を教える為だけに、教師は成り立ってるとでも思いたいんでしょうか?」と、真も今回ばかりは怒りを露わにしている。


「全員の生徒の気持ちも分かってあげるのが、担任でしょう。何を持って担任をやらせたんだろう」

「さあ……。他に誰もしたい人がいなかったんじゃないですか?」


「立候補形式なの?」

「いや、分からないですけど」


 二人は誰もいない校庭で話をしていた。誰かに岡本の悪口を聞かれたらいい気分ではないが、それでも良かったくらい、内心はらわたが煮えくり返っていた。


「何だろう、担任ってさ。さっきも言ったけど、もっと、生徒のことも考えてあげなくちゃいけないよね。先生が思う以上に、思春期の生徒たち何てデリケートなもんだよ。ウチのつむぎだって、普段大人しいんだから、時たま何を考えてるのか、あたしでも分からないのに……」

「まあ、確かに妹さんは大人しいですよね」


 あかねは真を見た。


「まこっちゃんもね」

「ハハハ、そうですね」

 真は頭をかいた。

「まあ、そこが君たちのいいところなんだけどね」

 そう言って、あかねはニヤッと笑う。


「ところで、岡本先生は昨日の事件に関与していたようには見えなかったですけど……」

「あの先生は、多分白なんじゃないかな。寝てたんでしょ」


「嘘かもしれませんよ」

「本当でしょ。年寄りだから早く寝るんだよ」

 相変わらず口が悪いなと、真はせせら笑った。


 すると、チャイムが鳴った。

「ようやく六限目が終わったみたいだね。そろそろ、演劇部の前で待機しておこうか?」


                @


 演劇部の場所は校舎から一番遠い多目的の四階の教室だった。普段は使わないようで、演劇だけの教室と化していた。それほどこの高校には演劇に力が入れているようだ。


 あかねと真はその教室の前でたわいのない話をしていると、顧問の的野がやってきた。

「今日も、よろしくお願いします」

 的野は謙虚に頭を下げた。

「いえ、あたしたちこそ、練習中にお邪魔して申し訳ないです」

 そう恐縮するあかねに、的野はもう一度お辞儀をした。


 この先生が、水野明日香に対して熱心に演劇の指導していたのかと思うと、どう性格が変わっていったのだろうか。


 教室を開けると、机や椅子はあるのだが、端に寄せている。立ってやる練習が多いからスペースを開けているのだろう。


「先生、演劇部の生徒さんたちは何人くらいいるんですか?」

 あかねは聞いた。

「ああ、一年と二年生は十人くらいで、三年生は三十人いるから五十人くらいかな」


「そんなにいるんですか?!」あかねは目を見開いた。

「そうだよ。やっぱりいろんな演劇や俳優を目指すための登竜門みたいな高校になったから、それだけの生徒がいるね。それに、森本君のファンだったという生徒もいるよ」


「じゃあ、単純に女性の生徒さんが多いという事?」

「まあ、そうだね。九割はそうだよ」


 女性慣れしていない真は、これから大勢の女子生徒が来ると思うと、結構圧力がかかるなと緊張が走った。


「でも、それだけの生徒がいるのに、この教室だけだったら、練習できなくないですか?」と、あかね。

「ああ、その為、その隣の家庭科教室も使わせてもらってるよ」


「それで、顧問の先生は的野先生だけ?」

「まあ、今年はね。去年まで二人いたんだけど、一人別の学校に転任してしまってね。それで、今年は一人で我慢してくれという校長先生の指示でね。来年では二人体制で行うとは言ってるけどね」


「ふーん。校長先生って先生のことも考えてるんですか?」

「基本、この高校の一番上の人だからね。教頭先生もいるけど、指示は校長先生だね。ごめん、ちょっと席を外すけど、生徒たちが来るかもしれないから、よろしくお願いします」

 そう言って、的野は出て行った。


「よろしくお願いします、って言われてもねえ」

 真は呟いた。

「まあ、あの先生は物腰柔らかいから、話しやすいね」

 と、あかねは独り言のように言った。


 それから、的野は戻って来ず、その間に、女子生徒が入ってきた。生徒は驚愕して立ち止まるが、あかねが「すみません。探偵の者です。水野さんのことで聞きたいことがあります」

 と、女子生徒たちの前で勝手に水野明日香殺しの事情聴取をした。


 一人ひとり他の生徒に聞こえない場所に連れて行き、事件の時のアリバイ、そして水野とどういった関係等聞いた。


 全員素直に答えてくれたが、やっぱり主役の座だった水野明日香が昨日亡くなったことで、まだ、気持ちが好調ではなかった。


 ほとんどの女子生徒が森本のファンで入部したのかと真は思っていたのだが、違っていた。森本を狙ってではなく、ただ演劇が好きな生徒もいれば、将来、そういった仕事をしたいという生徒もいた。


 ただ、あかねは入部動機がそう言った生徒に対して、

「本当~?」

 と、イヤミっぽく顔を近づけた。


 そして、いろんな人に聞くたびに、分かったことがあった。


 山本静香という三年生の女子生徒が、水野と同じように演技に打ち込んでいたのだが、今回の主役に抜擢されなかったこと。

 後、昨日話をした石留唯は水野に対して、執拗にイジメを繰り返していたということだ。


 あかねは教室に来た生徒たち全員に聞いた後、廊下で仁王立ちしながら真に言った。

「真君、ちゃんとメモしといてね」

「はい」

 と、真ははいはいと言ってしまいそうだったが、そう言うと、あかねが怒りかねないと思い、とどまった。


 今のところは十人くらいしか集まっていない。まだ、学校の掃除が終わっていないから、生徒が来ないのだろうか。それとも、昨日の事件の関係で、しばらく休む生徒もいるだろうし、退部届を出した生徒もいるかもしれない。


 すると、前からスマートな歩き方をした女性が教室に入る前に、こちらに気づき会釈をした。

「ああ、ちょっとごめん」

 あかねはその生徒を捕まえた。

「何ですか?」

 その女子生徒は落ち着いて冷静に言った。メガネを掛けているところが知的に見えた。


「あたしたち探偵なんです。今回水野明日香さんの事件で今皆さんに聞いているのですが、ちょっとだけお時間頂けないでしょうか?」

 その女子生徒は教室の中をチラッと見た。あかねから解放された生徒たちが仲良く談笑している。

「ええ、いいですよ」

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