第11話 気難しい先生
翌日、菅は署の方で雑用があるというので、真とあかねの二人で高校に足を運んだ。
五時限目が始まっている。つむぎの話だと、担任の岡本徹子先生が担当する国語が五時限目に入っていないことから、この時間を狙って岡本先生を狙ってみたらいいと、いう話を聞いたあかねは、職員室に訪れた。
「失礼します」あかねは恐縮して、ドアを横に滑らせた。
職員室は四人がいた。いろんな作業に取り組んでいる人もいれば、呑気にパソコンをいじっている人もいる。あかねに声を掛けてくれる人もいた。
「どのようなご用件でしょうか?」そう柔らかな声をした若い女性が、笑顔で接してくれた。
「恐れ入ります。あたしたちこういう者です」
そう言って、彼女は胸のポケットから探偵手帳を見せた。
「ああ、探偵さん。昨日も来られてましたよね?」
「そうです。今日は水野さんの件で、担任の岡本先生にお話がしたかったので、来校しました」
その話を全て頷きながら聞いていた先生は、後ろを振り返って、「岡本先生」と、パソコンに向かって作業していた五十半ばの先生に言った。
岡本はキーボードを叩くのを止めて、後ろを振り返った。「何か」掛けていたメガネを下にずらす。
「探偵さんが、水野さんの件でお話があると……」
「探偵が……。何かしら」
そう言って、彼女は立ち立ち上がって、こちらに向かってきた。
「すみません。水野さんの件で話がしたいんです。もし、お時間が大丈夫でしたら、ご協力をお願いしたいのですが……」
岡本はしばらく目をパチクりさせてから言った。
「分かったわ。いいでしょう。ただし、あまり長いは出来なくってよ」
あかねはまた、昨日石留と話した時に使っていた部屋を貸してもらい、真と岡本を座らせた。
「失礼します。早速なんですけど、岡本先生、昨日亡くなられた水野明日香さんはどのような方だったんでしょうか?」
岡本は聞かれるのを予想していたので、すんなり答えた。「私は彼女の担任になったのは今年の春からですが、去年から国語を教えていたわ。成績は優秀だったわね」
「そうらしいですね。一年生の時は素行が悪かったこともあって、成績が悪かったとお聞きしましたが、その名残はありましたか?」
「名残……。私は二年生からしか知らないから、分からないわよ」
「いやいや、そうではなくて、彼女の性格に変化はありましたか? 外見でもいいです」
岡本はメガネのフレームを整えるように、真ん中のブリッジに人差し指を押し上げた、「私は、全員の生徒を見ているので、個人がどれだけ変わったなんて、あんまりご存じないです。勉強しない生徒もいれば、ちゃんと真面目に勉強する人もいる。彼女がどうだったかは成績を見たらわかるんじゃないですか?」
あかねは、この言葉を聞いた時、この先生は酷い人だなと思った。頑固というか、自分の世界観を持っていて、国語を教える事だけが仕事だと思っているのかと怒りに震えた。
「ということは、分からないという事ですか?」
「二年生の時はね」
「三年の時はどうだったんですか?」あかねは心に沈めていたい、怒りが早口となって現れた。
「三年は演劇もやっていたし、授業もちゃんと聞いてましたよ。あなた、その態度人に聞く態度ですか、改めなさい」岡本はあかねのちょっとした動作を見破った。
「先生はちゃんと生徒さんを見ていたんですか? あたしは笹井つむぎの姉ですけど」
岡本は少し驚いた姿を見せた。「笹井さんのお姉さん? 笹井さんは凄く成績優秀で、大人しい子です。行儀もいいって私は知ってます。そのお姉さんがこんな態度が悪かったら、妹さんが大変でしょう」
「すみません。岡本先生。僕が話します」
真はこれ以上なったら、またケンカになると、岡本を自分に向けさせた。
「あなたは何、探偵さん?」
「はい」真は自分の社名を名乗るのを面倒くさかったので、適当に流した。「そうです」
「その他に聞きたいことは?」岡本は両手を机の上に組んでいる。
「岡本先生は、水野さんが最近元気ないなとか、不自然なことはありましたか?」
「分かりません」岡本は即答で答えた。
「水野さんが亡くなったことに対して、先生はどういった思いでしょうか?」
岡本はふうと、呼吸を整えてから言った。
「私は水野さんに対して何も教えてあげることが出来なかったことはショックです。彼女は人一倍努力してきたのかも知れません」
「分かりました」
「いい? 私帰るわよ?」
そう言って、岡本は席から立ち上がった。
「ちょっと待ってください」と、あかねは慌てて言った。
「何?」岡本は明らかに嫌そうな顔をする。
「一昨日の九時から十二時までの間、先生は何をしてましたか?」
「寝てたわよ! 私を疑うの?」
「あ、すみません。一応皆さんに聞いているので……」焦った真は、あかねの言葉を遮り言った。
その言葉を全て聞いていないであろう、岡本はその言葉に返答せずに、ドアを開けて出て行った。
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