第8話 迫真の演技?

 森本と前原は校内に入った。うつむいていた森本はこらえきれずに笑い転げた。

「ハハハ、あいつらマジビビってやがんの。あのオッサンの顔見た? 先公よりもきょどってたぜ。俺の演技見た? 本当に笑えるぜ」


「お前、本当にテレビで俳優もやってただけあって凄いな。俺、本当にキレてたのかと思ったよ」

 と、前原はようやく安堵の表情だった。


 前原は森本の外見とは違って丸顔だ。目つきは森本に比べれば、頬骨が発達していて穏やかな雰囲気だが、鼻筋は通っている。森本よりも愛嬌のある格好良さがあった。


「嘘に決まってるだろう。そんなに短気じゃねえ。しかも、オッサンと女、二人でケンカしてやがんの。バカじゃねえ」

「な、な、女弱くね?」

 二人は大笑いをした。そこに背の高くスラッとしたロングヘアの女子生徒が立っていた。


「あ、二人とも探してたんだよ。どこ行ってたの?」その女子生徒は言った。

「桃香、すまんすまん。ちょっとほら、今朝の水野の件あんじゃん?」森本はポケットに手を突っ込みながら言った。


「うん、それがどうかした?」

 その女子生徒、栗栖桃香は髪をかき上げた。アメリカ人と日本人のハーフで、いかにも美人な雰囲気を醸し出していた。


「その現場にいた刑事と探偵がアリバイを聞いてくるだろうと思ってたから、俺はいかにも不良っぽく常にイライラしてる生徒を演じてたわけ。そしたらさ」そう言って、森本はクククと笑いをこらえていた。

「何、何」桃香も自然と笑みを浮かべた。


「女はオッサンに怒られてしょげてるし、オッサンは俺が睨みまくったから、ビビっちゃって、結局アリバイ聞けずに済んだ」

 そう言ってケタケタ笑う森本に、桃香もつられて手を叩いて笑った。


「何、それ、マジうけるんだけど」

「だろ? 先公よりも面白いぜ。お前にも見せたかったぜ」

「ホントに翼は演技上手いから」そう言って前原も笑った。


「でもさ」と、森本は唾を飲み込んで気持ちを整えて言った。「一見、後ろでチビの中学生くらいしか見えなかった、奴いるじゃん」

「ああ、あの後ろでナヨナヨしてる奴?」桃香が言う。


「あいつが最後に俺に聞いてきてさ、俺がイライラした素振りを見せても、全然ビビってないんだよね」

「それは、あいつがバカだからじゃないの?」前原は笑顔を見せた。


 しかし、森本は一瞬真顔になって言った。

「あいつ、何か持ってるんじゃねえかって」


「何か持ってる? 刃物とか?」

 森本はそれにしばらく答えず、考えた素振りをしたが、「まあ、いいや」と、また笑顔を見せて表情が緩やかになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る