第6話 かつての友人
「何なの、あの校長。事件が長引くと言った途端に、嫌気になって」
あかねは頬を膨らませた。
「なあ」と、菅はあかねの思ったことに同意を示していた。
「しかし、校長先生はあれ程嫌な感じを出すということは、何かあるんでしょうね」
「そうだよな。まあ、校長の仕事は俺たちも分からないから、もしかしたら学校を汚されるのが嫌なのかもしれない」
「ホントにそれだけだったらいいけどね」と、あかねは手をジーンズのポケットに入れた。
「それよりも、水野さんの件だな。演劇の顧問は的野先生だと言ってたよな。その先生に聞いてみたらよりわかるかもしれない」
三人は職員室に訪れた。菅が近くの女性の先生に声を掛け、的野がいるかどうか聞いた。しかし、的野は担任を任されているようで、その上、社会の授業の先生であり、今の時間は一年三組の授業をしている。
「的野先生は忙しそうだね」あかねは言った。
「まあ、先生というのは忙しいもんだ。やっぱり、生徒から聞いた方が確かだろう」菅は自分の腕時計を見た。「もうそろそろ、四時限目が終わる。その後の休憩時間で聞きまわるぞ」
「石留さんって方はいるかい?」
菅が、休憩時間に入って、十分くらいしてから、水野明日香のクラス三年五組から出てきた男子生徒に聞いた。
「中にいるよ」と、面倒くさそうに、指を差した。「ほら、あそこにいる」
「ありがたいけど、人に指を差すなよ」菅は笑いながら注意したが、
「何だよ。オッサン」と、その男子生徒はメンチを切ってきたので、菅は苦笑した。
「まあまあ」と、真は止めに入った。「ありがとう」と、生徒に言った。
男子生徒は舌打ちを思い切りして、廊下を歩いて行った。
「しかし、この高校は素行が悪いのか? 注意しただけでケンカ腰になるなんて……」
菅は他の生徒に聞こえないくらいぼそぼそと呟きながら、教室の中に入った。
教室の中にいた生徒たちは、一斉に三人を見ていた。
菅はそれをお構いなく、男子生徒が指を差した女子生徒に近づくと、「君が石留さんか
い?」
「そうだけど、何ですか」茶髪に染めている石留は食後にガムを噛んでいた。
「ちょっと、水野さんの件で話がある。もしよろしければ、席を外して欲しいんだが……」
石留は他の二人の女子生徒と喋っていたので、二人に向かって、何だか知らないけどと、
お手上げのポーズをとっていた。
「協力してくれるかい?」
石留はガムを膨らませながら、席から立ち上がった。
職員室の前にあるこじんまりとした個室に入り、小さなテーブル一台に四脚の椅子があった。石留は面倒くさそうに奥の椅子に座った。彼女の隣はあかねだった。
「何なの。取り調べ?」石留は調子に乗っているのか、噛んでいたチューイングガムを膨らませていた。
「取り調べというか、事情聴取だ。君は水野明日香さんと親友くらい仲が良かったと聞いたが?」
石留は膨らませたガムが弾けて、また口の中で噛んでいた。「仲は良かったというのは昔の話。最近は寧ろ嫌ってたから」
「どうして?」あかねは聞く。
「ん?」石留は椅子の背にもたれて、両手をポケットに突っ込んでいた。態度が悪い奴だと真は思った。
「あいつが演劇に真剣になっていたのが面倒くせーなって」
「真面目になったってことかい?」と、菅。
「ま、簡単に言えばそうだね。クソ真面目になったというキモさと、森本翼に恋しているというキモさがある」
「森本翼って?」と、あかね。
「ああ、演劇部のアイドルっていったらいいのか知らないけど、あいつは昔テレビの子役タレントだったんだ。それで、イケメンだし、当時はたくさんファンがいたから、その影響もあって、モテモテさ」
「子役タレントか……。森本翼……。NHKに出てたアレか!」
菅は興奮して手を叩いた。その音が響き渡っていたのか、あかねと石留は嫌そうな顔を露骨に出した。
「まあ、そうだよ。そいつがタレントを辞めて一般の学校に通ってるってわけ」と、石留。
「しかし、何故あれほど女性ファンが多かったのに関わらず、引退したんだ?」菅は腕を組んだ。
「さあね。噂じゃもう一人イケメンのタレントと一人の女子の取り合いで、ケンカになって辞めさせられたってあるけどね」
「それは、本人に聞いたのかい?」菅は身を乗り出して聞く。相当、森本に対して興味があるらしい。
「聞いた人もたくさんいるんじゃない。ただ、理由がどうであれ、この学校の三年の女子の半分は森本が好きなんじゃないかな」と、石留は両腕を頭の後ろに組んで、菅を見下ろす感じになった。
「そんなにイケメンなの? あたしは全然テレビ見なかったから、森本って言われてもピンとこないんだけど」あかねは頬杖をついた。
「思ってる以上にイケメンじゃねえよ。ただ、何気に人気があったから、それにみんなもチヤホヤしたってわけ」
「あんたは好きじゃないの?」
「あたしは別に深くかかわりたいとは思わないね。奴は結構小心者なんだよ。だから大口叩いてるけど、言ってることとやってることが違うんだよね。それにナルシストだし……」
「己惚れてる感があるってわけだね。あたしもそんな奴気持ちが悪いな」
菅と真は二人のやり取りを見てて、互いに何かを感じたように、二人で顔を見合わせた。お互い「な!」「ですね」とやり取りをする。
それを見ていたあかねはきょとんとしている。「何がですね、なの。真君?」
「いやいや、菅さんも思ったんですけど、あかねさんと石留さんなんか似てるなって……」
「似てる……」
あかねが言って、石留と二人互いに見た。石留は指を差して笑い出した。
「ちょっと待ってよ。あたし、こんな髪ボサボサじゃないよ」
「っるっさいな。しばくぞ!」と、あかねは握りこぶしを作った。
「顔は似てないけど、性格や言葉遣いが似てるな。あかねちゃんも高校生の時はこんな感じだったよ」
「あたしは更生したの。いちいちうるさいな」
「これだったら、妹さんよりも似てますよね」と、真が言う。
「妹? 妹もいるんだ」石留はあかねに対して言う。
「そうだよ。しかもあんたと同じクラスの、笹井つむぎって知らない?」
笹井つむぎ……という名前に、石留は中々たどり着けなかったが、ようやく理解したようで、
「笹井って、めちゃくちゃ美人じゃん。全然違うじゃん。縮れ毛じゃないし」
「うるさい。殴るよ」あかねはまた握りこぶしを作った。目が笑っていない。
「ストレートパーマ掛けてるのか。なるほど。でも、笹井はさっきの森本が狙っている一人だけど」
「なーにー」あかねは素っ頓狂な声を上げた。
その言葉に、憤りを感じたのはあかねだけではなかった。真も沸々と燃えている。
「まあ、笹井は近寄りがたい面があるから、森本も行けない部分があるけどね……」
そう言って、石留はあかねを見た。あかねは歯を口縛って、闘志に燃えている。
「……森本を連れてきて」
「え?」ガムを噛んでいた石留が思わず噛む仕草を止めた。
「取り合えず、森本をここに連れて来いって言ってんの!」
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